2016.12.20

泉 栄一(MINOTAUR) 革新的なファッションは“等身大”と“手触り”から生まれた

〜機能と心地良さが共存するブランドの追求〜

泉栄一(いずみ・えいいち)

泉栄一(いずみ・えいいち)

有限会社ファント代表取締役/MINOTAURディレクター。地元・福岡でインポートブランドの輸入・販売、企画デザイン業務を経験し、2004年に自身のブランドであるMINOTAURを立ち上げる。現在ではMINOTAURのほか、大手ブランドのディレクションやユニフォームデザインなどを手掛けている。主な仕事に、ワコールのコンディショニングウェアー「CW-X」アドバイザー、エチケットブランド「MXP」メンズディレクター。また「SONY」ストアー、本社受付、「JiNS MEME」のショップユニフォームデザインなども担当。またDJとして、数々のイベントへの出演やオーガナイズ、コンピレーションアルバムの選曲などを勢力的に行う。

現代と、その一歩先に求められる快適な日常着をテーマとするファッションブランド「MINOTAUR(ミノトール)」。2004年のスタート以来、コンセプチュアルな服づくりで、高い人気を誇っています。なかでも、スマートフォンと連動したヒーター内蔵の機能ウェア「I/O COLLECTION」は、テクノロジー×ファッションという革新的なプロダクトながら、ベーシックなスタイルに宿る機能美、普段着としての快適な着心地やタフさへのこだわりを貫いた、言わば未来のライフスタイルを牽引するアイテム。常に自然体であることをモットーとし、手触りから服づくりを行う泉さんに、「HAPTIC DESIGN」の本質にも通じる、ものづくりに込めた想いを聞きました。

泉栄一の写真1

MINOTAURは、
どんな経緯でスタートしたブランドなんでしょうか?

もともと福岡のインポートブランドを扱う会社でバイヤーをしていました。ファッションは小さい頃から好きでしたが、上の世代が既に築いてきたものが大きかったので、そことは違う、自分の世代のリアルタイムなファッションを追求したいと思い、MINOTAURを立ち上げました。僕はデザイナーでもパタンナーでもないので、服づくりのプロフェッショナルの人たちとのコラボレーションによってプロジェクト的にモノづくりを行って、ブランドを進めていきました。ただ、そういうあり方は、当時のファッション業界ではなかなか理解してもらえなかったようですね。

 

ー圧縮したTシャツを缶に詰めたり、実際の商品は店頭に並べずアートのように作家のメッセージを展示して販売するなど、初期コレクションからユニークなアプローチが多いですが、こういったアイデアはどこから出てきたものなんですか?

初期コレクションのTシャツ缶

自分の中では、ファッションとカルチャーはとても近いものなので、洋服だけがオシャレで、カルチャーには無頓着というのは、違和感があったんです。だから、洋服や家具、建築、アートといったさまざまなカルチャーに意識が向いている人をターゲットに、そんな人に似合うファッションをつくりたいと思っていました。当時は時代的にもファッションのスタイルはもう出尽くしたと思われていて、新しいことをやる必要があったし、当時の店は人通りがほとんどない場所にあったので、まずはお客さんに来てもらう必要がありました。そういう環境下で、自分のアイデアを試していったんです。

そこから今まで、
どんな心構えでブランドを続けてこられたんでしょうか?

誰かの真似ではなく、等身大の自分で、自分なりの素直な気持ちで作れば、そのリアリティが人の心に触れられると思ってやってきました。僕がこの業界に入ったころは、〇〇ディレクターや〇〇デザイナーといったクリエイティブ系職種の名前がどんどん増えて、みんなが職種を変えていった時代です。僕の服作りも、たくさんの人の意見を混ぜながらまとめ上げていく作業なので、通常のファッションデザイナーとは大きく違います。でも僕は洋服というジャンルからはブレずに、その突き詰め方を変えていきたい、と思ってやってきました。I/O COLLECTIONも、その試みの一つですね。

I/O COLLECTIONとは、
どういうプロダクトなのでしょうか。

I/O COLLECTION写真

I/O COLLECTIONは、スマートフォンと連動したプロダクトラインです。代表作は、スマホでコントロールできるヒーター内蔵のジャケットやアウターですね。暖まる洋服は以前からありましたが、炭素繊維のため突っ張り感があるものがほとんどでした。このコレクションでは、薄くて柔らかく、ストレッチが効いて着心地がいいものを実現できました。最新のテクノロジーを使いながら、あくまで自然体でいられるものにする、そこがポイントです。機能ありきのモノづくりではなく、もし機能がなかったとしても十分に美しくて、いいものであること。そこにプラスαとして機能があるように作っています。

 

MINOTAURのコンセプトは
「その人自身のアイデンティティのために」
ですが、
自然体であることや心地良さにこだわり続けてきた理由を教えていただけますか。

初めからそう決めていたわけではなくて、自然と行き着いてそうなった、という感じですね。僕も昔は、ゴワゴワしたリーバイスのXX(ダブルエックス)のビンテージジーンズを履いて腕立て伏せをしたりとか(笑)、ファッションに関するいろんなトライをしていました。でも、そういうスタンダードなところにはすでに、それをずっと続けている大先輩が、必ずいるんですよね。僕はそういう先達に尊敬の念があるが故に、無理して同じスタイルを真似してもしょうがないと思っていて。それで、自分の感覚を頼りに、心地のいいものに行き着きました。音楽でもいろんなことを試してきましたが、そこにも偉大な先輩たちがたくさんいます。そんな先輩たちの中に入っても、自分らしくいられる、自信のあるものだけを続けていこうと思っています。

ご自分のブランドの中で、
Hapticの重要性をどのように感じていますか?

スーツの写真

“自然体”や“着心地”がブランドの重要なキーワードなので、Hapticはとても大事に考えています。僕はバイヤー出身なので、人よりも多くの服に触れて、実際に袖を通してきました。もちろん失敗もたくさんしています。そういう、着た回数が多い人が作る服のリアリティを追求するのが、MINOTAURというブランドなんです。例えば、二日酔いで服を選ぶのも億劫に感じることってありますよね? そんな時、フォーマルなのに身体にスッとなじんで「これを着ておけば間違いない」と思わせられるような服を作りたいと思っています。
だから、生地の質感や触感を大事にしますし、色がいくら気に入っても触感がよくなければ使いません。新しいコレクションを作るときにも、まず生地屋に行って触りまくるところから始めます。本当に人差し指と親指の指紋がなくなるんじゃないか、というぐらいに触って(笑)、かつて似たような生地の服を着た時の経験を思い出し、出来上がりを想像して作っていきます。工場の人にも「これまでで一番多くの生地見本を頼んで、一番多くはじいた(不採用にした)人」って言われましたね(笑)。

泉さんが個人的に好きな触感はなんですか?

泉栄一の写真2

太陽の下で干したシーツに寝たときの触感は、大好きですね。パリッと乾いていて、赤ちゃんのような柔らかさもあって。やはり僕の思う心地良さって、自然なもの・天然なもの、ということなのかもしれません。でもそれだけだと古き良きものを想像しがちですが、それを新しい素材や機能で表現したいんです。先ほどの缶や展示での販売もそうですが、「え!? これ、何?」と思うような、コミュニケーションのきっかけとなる要素を洋服に取り入れたいというのは、立ち上げ当初から意識していたことでもあります。

HAPTIC DESIGNを通じて、
これからどんなことに挑戦していきたいですか?

Hapticの考え方は、これまで意識していなかっただけで、改めて考えてみれば僕の服作りの根本とも言えるほど重要な要素です。今日もこんな風に取材で話をしながら、新しい気づきがたくさんありました。Hapticを意識することで生まれてくるアイデアを、自分でも楽しみにしています。例えば今思いついたんですが、「触覚」タグはどうでしょう? I/O COLLECTIONでは、品質タグの他に、どんな機能を持っているかを示すファンクショナルタグをつけています。これは機能性のある洋服が増えてきたときに、どんな機能だったかわからなくならないようにするためのものなんですが、ここに「触覚」のタグをつけてみたいですね。気持ち良さを数値化して表現したりピクトグラム化したりなんて、考えるだけで楽しいですね。

スーツのタグ写真

MINOTAURやほかのプロジェクトも含めて、
今後の展望を教えてください。

今は、アイデアが次から次へと入ってきて、そのペースが早すぎるので、出て行くものと入ってくるものをもっと循環させてバランスをとる必要がある、と感じています。そのために、MINOTAURだけをアイデアの受け皿にせず、いろんな技術を持った大手の企業と繋がりを深めていこうと思っています。Hapticへの理解が進めば、モノへと向き合う関係性が変わり、消費者と作り手の関係も変わるでしょう。単なる洋服の売買だけでなく、お互いの意識を刺激し、アップデートさせていくような関係を築けたらいいなと思います。

泉栄一の写真3

TEXT BY WATARU SATO
EDITED by MASARU YOKOTA(Camp)
PHOTOGRAPH BY HAJIME KATO

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