2017.04.06

HAPTIC DESIGNERが誕生した記念的な授賞式・エキシビジョンをレポート

2017年3月27日は、HAPTIC DESIGNER(触業)の誕生日として、未来の歴史に刻まれることになるかも知れない–

2016年より、触覚の研究分野と、デザイン/クリエイティブの融合にチャレンジし、“触れるデザイン”「HAPTIC DESIGN」という新たなデザイン分野の開拓を行なってきたHAPTIC DESIGN PROJECT。

触覚をデザインするデザイナーの発掘と育成目的のひとつに掲げた同プロジェクト初となるアワード「HAPTIC DESIGN AWARD」のエキシビジョン(2017年3月26日〜4月2日)がFabCafe Tokyoで開催され、その受賞パーティが3月27日に行われました。

会場の外観写真

会場の内観写真

ハプティクス技術を採用したコントローラーを搭載したゲーム機「Nintendo Switch」が3/3に発売され、3/10~3/19開催の米・テキサス州オースティンでの「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」でも触覚や身体性に関するテクノロジーが注目を浴びた直後と、HAPTIC(触覚)への熱気が高まるタイミング。HAPTIC DESIGNという新領域の解像度が上がり、また同時に可能性の広がりまでも感じさせた、ムーブメントの最前線の熱気をお届けします。

「みなさんがHAPTIC DESIGNERの肩書きを名乗って仕事をする。そんな未来を作っていただければ」(南澤孝太(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授))

南澤先生の写真

触覚領域の研究を社会につなげていくにあたり、研究者のちからだけではなく、広くクリエイターのみなさんとともに新たなデザイン領域として開拓することを目的にはじめたのが、HAPTIC DESIGN PROJECTであり、このHAPTIC DESIGN AWARDでした。

コミュニケーション、体験玩具、ファッション、建築とさまざまな領域から今日も起こしいただいている審査員の方々を「HAPTIC DESIGN CAMP」という触覚デザインについて知ってもらうイベントにお呼びし、参加クリエイターのみなさんとHAPTIC DESIGNの可能性への探求を行ってきた結果、はじめてのアワードにも関わらず作品部門42作品、アイデア部門29作品、計71作品もの応募をいただきました。

この会場には、研究分野ではありえない多彩な受賞作品をお披露目しています。

触覚技術の概念からの広がり、日常への新たな気付きを感じていただければと思います。

受賞者みなさんは、HAPTIC DESIGNERです。今後みなさんが名刺にHAPTIC DESIGNERの肩書きを持ち、お仕事をされる未来を作っていただければ嬉しく思います。

観客の写真

HAPTIC DESIGNER受賞者の声

HAPTIC DESIGNERとなった受賞者への授賞式。佳作の紹介の後、優秀賞とグランプリへ贈賞が行われました。受賞者の喜びの声を、評価のコメントとともに紹介します。

アイデア部門 優秀賞:「LIP SERVICE」
北恭子さん(電通 コミュニケーションデザイナー) /迫健太郎(Panasonic プロダクトデザイナー)

作品写真

北恭子さん
普段は屋外広告という、触れることのできる広告メディアを仕事として。タバコは吸わないんですが、アイデアを考えるときなどに、タバコのかわりになるものがあればというがアイデアの原点でした。

迫健太郎さん
多くの人が触覚の楽しさに触れる入り口を作りたいと考えて、タバコというメディアを選びました。作品はアイデアのみでしたが、今回の受賞をきっかけに、エキシビジョンの展示をするFabcafeやMTRLのツールを使って、プロトタイプを実際に作れたのは、嬉しかったです。みなさん触れてみてください。

オーガナイザー:渡邊淳司さん(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)の評価コメント
タバコは個人的には嫌いなんですが、例えば人前でこうして話すときにポケットに手をつっこんで暖かさにホッとしたり、昔の電話時代には話しをしながらついついコードをいじくったりして不安を解消しようとしてしまう。タバコも不安をやわらげるのものなのであれば、RIP SERVICEのアイデアはとても面白いと思いました。触感がつくるポジティブな感覚を、将来ぜひ製品化をしてもらえればと期待しています。

作品部門 優秀賞:「積み紙(tsumishi)」
川崎 美波さん(東京藝術大学大学院)

川崎さんの写真

※川崎 美波さんは都合により授賞式は欠席。写真は展示会場にて

審査員:高橋晋平さん(ウサギ)の評価コメント
職業はおもちゃ開発者なんですが、積み木は、絶対に壊れてはいけないおもちゃの代表のようなものなんです。和紙でできた「積み紙」は、そんな業界の常識に囚われている自分に、ハッとした気づきを与えてくれる作品でした。子どもに与えたら、やさしく触るかもしれないし、もし子供がやさしく大切にものを扱うことを覚えるおもちゃになるとしたら、とても大きな発見だと思います。

グランプリ:「稜線ユーザインタフェース」
安井 重哉さん(公立はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科 准教授)

稜線インターフェイス

安井 重哉さん
今は大学の教授ですが、以前は家電メーカーでGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)、二次元のインターフェイスの研究を行っていました。稜線インターフェイスは、大学の研究として行っていたもので、アイデアスケッチだったものを、それを動くプロトタイプにまでしようと背中を押してくれたのが、今日この場にも来ているゼミの学生です。静電容量式のタッチセンサとインダストリアルクレイなどを使ってかたちにしてくれました。

オーガナイザー:南澤孝太さん(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授)
本作品は、環境が皮膚を持つという新しいデザインを示してくれたのだと思っています。環境を触れるという行為を促しているのが美しいし、実際に触れてみてよりその可能性を実感することができました。

審査員:堀木俊さん(隈研吾建築都市設計事務所)
建築では素材は触らないことを前提にしていますが、この作品は触りたいという行為を見事にデザインしていると思います。

エキシビジョンの展示風景とともに佳作作品を紹介

アイデア部門の受賞作品群、評価コメント

・「寝かしつけ用“ウェアラブルポンポン”」代田ケンイチロウ(ARATANAL IDEA/CONCEPT/STORY/COPY)
「親と赤ちゃんのコミュニケーションをテーマにした作品は、いくつか応募があったのですが、忙しいママが増えるなかで、ママの課題を解決するこのアイデアを評価しました」(審査員:大屋友紀雄)

・「How Far To Touch?」竹腰美夏、今井 剛(NPO法人Mission ARM Japan)「身体性には個人差があるもの。このアイデアのように。今後個人のために身体性をfabするというアプローチもありえると思っています」(オーガナイザー:南澤孝太)

・「さわってカルタ」藤川美香(クツワ株式会社 商品開発部)
「触覚の地図が欲しい思っているのですが、このアイデアは触覚の言語化とその記憶というふたつをことを遊びに昇華している(オーガナイザー:渡邊淳司)

・「傘ぶくろくんの手」松本祐典(博報堂 プランナー)
「まったく役にはたたないんだけど、水でぷにぷにの手は触り続けてしまう気がします」(審査員:高橋晋平)

作品部門の受賞作品、評価コメント

「ひるねで候」
Team at! (花形槙、木許宏美、小笹祐紀、加藤有紀)(慶應義塾大学SFC,A&T)

「昼寝で候は、超イチオシしました。合戦の真ん中で寝られるなんて体験は、VRでも得られない。お金を払っていいと思ってます」(審査員:高橋晋平)

「connect project」
大平暁(Artist)

「触覚が言語になり、環境を文字のように読めるようになる。本来言語化されない情報を言語化していくのは、今後求められていくアプローチだと思います」(審査員:堀木俊)

「hapbeat」
 山崎勇祐(Hapbeat合同会社 代表社員)

「耳で聞くではない音の聴き方は、ライフスタイルを一変させるかもしれない。デバイスから普段使いになれば面白い」(審査員:高橋晋平)

「COVER」
黒田恵枝(美術家)

「振動子を使ったアプローチが作品部門で多く応募されるなかで、内面性をジャックするこの作品はは、新鮮に映りました。ハプティックの内面性を感じさせた点で気づきもありました」(審査員:大屋友紀雄)

「WIM」
亀井潤、ケイト・マックケンブリッジ、ジェイコブ・ボースト(Royal College of Art)

「テクノロジーを使ったファッションは、昔はロボット的なものが多かったのですが、機能的ありながら自然体。綺麗なラインなど、柔らかさを感じさせてくれるもの良かった」(審査員:泉栄一)

「Cross-Field Haptics」
橋爪智(筑波大学デジタルネイチャー研究室)

「映像を作るなかで、柔らかさの表現には苦労している。柔性とハプティックを表現できるこの技術には期待したいです」(審査員:大屋友紀雄)

クロストーク

“触れるデザイン”をはじめて評価する立場となった審査員、
オーガナイザーに生まれた気づきとは?

授賞式の後に行われたのは、“触れるデザイン”作品群を、はじめて審査する立場で関わった審査員、オーガナイザーによるクロストーク。

南澤孝太の写真

南澤孝太(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授)

ひとつの展示会として本来並び得ないような、ジャンルもカテゴリーも一見ばらばらな作品が集まったのがこのHAPTIC DESIGNのユニークさだし、その可能性の広さを示していると感じましたよね。

渡邊淳司の写真

渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員)
応募された作品をみていてHAPTIC DESIGNには、3つのパターンが現れたように思ったんですよ。

1つ目は言語化
これは触覚で新たな言語をつくるようなアプローチで、リップサービスや、さわってカルタ、connect project

2つ目は、個人化。
そもそも触覚は個人的で主観的な感覚で、その内面にフォーカスしたようなアプローチで、これは「昼寝で候」やマスク「COVER」、義手といった作品ですね。

最後の3つ目は、物語化。
触覚を通じて生まれる世界観や、稜線インターフェイスや積み紙は、触覚のデザインによって新たな世界や物語を生み出すものだと思いました。
また、今回のアワードを経てあらためてHAPTIC DESIGNの面白さや可能性として感じたことを言葉にすると、触覚を軸に作り込まれた世界観や、未来への想像力、寛容さや多様性だったかなと思います。素直に感動しました。

高橋晋平の写真

高橋晋平(株式会社ウサギ 代表)

ボクは実は8年前にとある病気で一時寝たきりになった経験があるんですが、その時に触覚的なものにすごく助けられたんですね。気持ちのいいタオルの肌触りにさえ、助けられたと感じたんです。触覚は、乳幼児や子供にも大事なものですよね。

大屋友紀雄の写真

大屋友紀雄(クリエイティブカンパニーNAKED Inc. プロデューサー)

今回のアワードは、いろんな気付きがありました。審査会では、リップサービスは、「大人のおしゃぶり」なんじゃないかとか、審査員全員での大ブレスト大会になったり(笑)。あと個人的に猛烈にプッシュした「稜線インターフェイス」がグランプリをとったのも嬉しかったです。スイッチに囲まれた世界を変える可能性がありますから。

堀木俊の写真

堀木俊(隈研吾建築都市設計事務所)

ひとつのアワードでこれだけメディアが違う作品が集まるのも珍しいんじゃないですか? それぞれに違う触覚を軸にしていて、審査をしていてとっても面白かったですよね。

泉栄一の写真

泉栄一(MINOTAURディレクター/デザイナー)

最近ジムに通うようになって、自分の身体感覚がわかるようになって楽しくなってきたんですよ。このアワードに関わって、こどもが味覚を覚えていくように、自分のなかでの触覚というものの広がりを実感していく感じがあって楽しかったですね。

授賞式風景

南澤孝太(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授)
さきほど渡邊淳司さんも個人化といっていたけど、触覚を含む身体感覚には実は個人差があるものなんですよね。審査をするなかでも審査員のパーソナルな体験からでる視点の違いが面白かったんですが、HAPTICをDESIGNするうえでどういう体験をしてきたのか、幼少期の触覚的な記憶や自分が強く感じるフェチな感覚も大きく関係する、それをいかにひとりよがりにならずに、体験や世界観に落とし込んでいけるかが大切なんだと思いました。今後は自分だけの身体感覚をfabでカタチとしてデザインするといったアプローチも十分にありえるんだろうなと思っています。

会場であるここfabcafeの3Fにプロジェクトの拠点も作りましたし、ぜひ今後もこのHAPTIC DESIGN AWARDを継続していきたいと思っています。

 

HAPTIC DESIGNプロジェクトの新拠点では、
特別出展のRezのサプライズ体験も

特別出展の「Rez Infinite – Synesthesia Suit」がこの受賞パーティ限定で体験できるサプライズも。Fabcafeの3Fに完成したばかりのHAPTIC DESIGNプロジェクトの拠点のひとつ「Living Lab SHIBUYA」で、ラッキーな5名が、“人生観が変わるような美しい体験”を愉しんでいました。
「Rez Infinite – Synesthesia Suit」は、当サイト、DESIGNER’S FILEの水口哲也さん(enhance games)のインタビューをどうぞ。

PHOTOGRAPH BY HAJIME KATO

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