2017.11.04

触覚と社会はどう結びつくのか?
Haptic ×(Social)Designの実践手法を語る(後編)

〜ゲスト:渡邊 淳司、太刀川 英輔/ホスト:南澤 孝太〜

“わざ”にフォーカスし、Haptic(触覚)の研究やデザインに携わる方々をゲストに開催するシリーズイベント「Haptic Design Meetup」。2017/11/4に実施したVol.5は「Haptic ×(Social)Design」をテーマに行いました。

イベントのオーガナイザーである南澤 孝太氏をホストに、渡邊 淳司先生(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、太刀川 英輔さん(NOSIGNER)を交えて行われたクロストークの模様をお届けします。

 

※肩書は2017年11月4日登壇当時のものです。

クロストーク1

ー左から南澤 孝太氏、太刀川 英輔氏、渡邊 淳司氏

「デザイナー」と「消費者」という
二項対立の関係性を越えて

(渡邊)僕、今、ウェルビーイングのワークショップをよくやるんですよ。そこでやってるのは、「あなたにとってウェルビーイングとは何ですか。要素を3つ挙げてみてください」ってやると、みんな全然違うことを言うんですね。もちろん実験としていろんなデータを取った平均として、ウェルビーイングには自律性が重要ですとか、ポジティブエモーショナルが重要ですとか、そういう話もあるんですけども、それだけじゃなくて、自分にとって何が大事かみたいなことを引き出してあげるっていうプロセスが大事であって、僕がその中でやっていきたいのは、やっぱりマーケティングとしてうまく触覚を流通させる一方で、それだけじゃなくて、それぞれ個人にとっての意味みたいなものをどうやって引き出してあげるかっていう、2つの面が必要で、これはウェルビーイングのエコシステムと言っているんですが、それは何を言ってるかというと、そこに関与する人たち全員が、自分のウェルビーイングを自分ごととして感じ、自分にとって価値あることを引き出して、大事にできる関係性。

つまり、触覚のデザインをする人は、デザイナーと消費者に分かれるんじゃなくて、そこに関る人全員が、どうすればウェルビーイングだったり、出来事を触覚を通じて自分事化できるのかとか、そういうことができる場をつくっていきたいと思っています。

(南澤)自分が主体となって、自分から作用しながら、自分が関わりながらそれに触れるとか、それによって自分の行動変容が生まれるってところと、逆にある意味それが1回生まれることによって、さっきのコンセンサスが取れるようなことが生まれてくる。

(渡邊)そうですね。その中で自分は全体に対してこういう志向があるんだって、だんだん自分にとっての触覚の意味みたいなのが見えてきたりするわけで。もちろん共通要因としての部分はありますが、個人としての触覚が強いということを感じています。

(太刀川)それでいくと、要するに触覚単体をどう感じるかっていうふうに考えると、人それぞれ違うよっていうふうにしか言えなくなってくるんだけど。触覚って、1つの体験で収まらなくて、例えばさっきの震災がれきは確かにザラザラなんだけど、あれをザラザラの空気でつくるんだったら、ほかの素材は、そっちの方向性に合うものを選んでこないといけないんですね。例えば、床は、がれきは使わなかったけど、足場板にしてるとか、コンクリートはラフなまま出すとか、金属はピカピカにせずにザラザラの素地をうまく見せるとか。そういうことによって、要するに1つの触覚を判断してるんじゃなくて、触覚空間とか触覚体験としての、その状況や全体を把握してるんですよ。これを揃えるということをブランディングだとかなり意識的にやります。例えばザラザラしたブランドは、ザラザラし続けていて、ツルツルしたものは、あまりつくりません。同じようにツルツルしたブランドは、ツルツルしたものしかつくりません。

(南澤)ある意味、それを買った消費者の人たちが、自分が触れてるって体験に対して、その継続性を持たせていく。

(太刀川)そうです。だから、1つの体験でとどまらずに、そのブランドないし、皆さんの生活もそうなんですよ。例えば家をおしゃれにしたいなと思ったら、自分の好きな風合いのものだけにしたら、すげえおしゃれになった気になると思いますよ、これ、まじで。ちょっとやってみてください。これ、質感的に好きじゃないってものを全部捨ててみるとか。そういうことを、少なくともデザイナーはコントロールしていて、それによって、実際にそういう1方向のベクトルの質感によって、どういう印象が想起されるかってのは、これは分かんないんですよ。ただ、触覚を正しくというか、強く伝えることによって、その背景にある物性とかを読み取ってもらおうとすると、結構意識的にそういう意図する触覚以外を捨てていくっていうことがとっても大事になりますね。

公共空間における
Haptic Designをどうとらえるか

(渡邊)例えばなんですけど、太刀川さんが公園をつくるとしたら、どんなテクスチャーのものをつくるんでしょうか? 何でかというと、家をデザイン、部屋をデザインすると、別に自分の好きな触感を集めればよしと。一方で、いろんな人が集まってくるバブリックな場があったときに、テクスチャーっていうものは、どんな役割を果たすのかとか、都市としての意味とか。そこで、どんなふうなコミュニケーションがそこで起きてほしいと思っているかを聞いてみたいです。

(南澤)全然違う年齢層とか、バックグラウンドの人たちが集う空間ですね。

(太刀川)なるほど。それは結構面白い問いで、公園っていうのは自然物と人工物の間にあるじゃないですか。だから、要するに、原っぱであるはずのところが、やぶだとびびるんですよね。「これ、公園って呼ぶなよ」みたいな感じの、多分怒りすら湧いてくると思うんですよ。だけど、そこはやっぱり原っぱにしてるじゃないですか。要するにそれは人工物と自然物の間ぐらいのテクスチャーをうまく取ってるわけですよ。自然物を使って、人工的。

(南澤)庭園をつくったりって感じですね。

(太刀川)本物の岩なんだけど、それがスレートで、タイル的にガーデンになっているとか。要するに、コンテクストとテクスチャーの組成は、はまってるべきなんですよ。だから、公園というコンテクストは人工と自然の間ってことだとしたら、素材は天然のものなのに、そういうふうに人の手によって割とコントロールされた素材が使われてるということは、これは僕がどうしたいかというよりは、一般的に公園に言えることだと思う。そういうことを理解して、あえて、めちゃラフな場所をつくって、「えっ?」っていうふうに驚かせることもできるし、そういうふうなものの延長にあることの中で、きれいに公園をつくっていくこともできますよね。

(南澤)いろんな話が出てきそうな気がして、まだまだ続けていきたいんですけど、そろそろ終了の時間が近づいてきました。1つ、2つ、会場から質問をいただければと思うんですけども、いかがでしょうか。

質疑応答

(お客さんA)本日は、面白い話をありがとうございました。さっき、どうしてもビジュアルのデザインとテクスチャーのデザインっていうものは一緒に考えるみたいな話をおっしゃてたんですが、ただ、なかなか、Amazonの商品がずらーっと並んでいるような、ああいうサムネイル的な文化の中で、ビジュアルデザインとテクスチャーが一緒になっている状態って見つけにくい部分なんじゃないかなと思うんですよね。そういったところは、どのように考えられてるんでしょうか。

(太刀川)だから、本当にオンラインでよく服を買うよなって、僕、思うんです。だから、そこには触覚技術の余地があるんですよ。だって分かんないんだもんね、風合いが。僕は紙とか布とかもめっちゃ選ぶけど、いやー、微差ですよ、超微差。ただ、なぜか物性のそういう奥にある記憶を僕らは知っているんで。だから、例えばなんですけど、最近それのハイブリッドが出てきましたね。例えばコナカがやってる「DIFFERENCE」っていうサービスは、スマホのアプリでワイシャツを注文するサービスなんですが、最初の1着だけは現場に行って、布を選ばせるんですよね。要するにある場所に素材のアーカイブだけがあって、そのアーカイブと出来上がった物っていうことが分かれば、その間で出てくるものを想像できると思うんです。

例えば、これから物流業界が3Dプリンターなんかの影響で変わっていくと思うんですけど、そのときには、じゃあ、どういう質感で最終的に物にしますかっていうことを選ばせるときには、そのリアル空間がすごく大事になってくる可能性があります。例えばコンビニエンスストアで素材だけ選んだら、それが半日ぐらいするとできてくるみたいなことが結構近未来に起こってくる可能性があると。そのぐらい物質って、再現の難しい技術だから、これだけ優秀な研究者がみんな研究しててもなかなかディスプレイ化できないっていうのは、そういうことでもあるんだろうと思うんですよ。もちろん一部はできてるから、さっきの心臓みたいなことができてるわけなんですけどね。だから、そのチャレンジの先にあるのはそういうことなんでしょうね。

(南澤)もう1つぐらい、ご質問いかがでしょうか。

(お客さんB)ご講演ありがとうございました。記憶が素材の質感を理解しているということから、今度逆に、素材だけを見せて、記憶を植え付けるというか、体験を植え付けるっていうことが、例えばできるんだろうかというところについて、何かご意見いただけないかなと思いました。

(太刀川)多分、新しい触覚体験をつくって、そういうものだって植え付けていくっていうことができるんだけど、そこまで強い意味を持たない可能性があるのは、さっきも言ったとおり、僕らは新しい触覚に触れるときに、もう何にもなくてその触覚に触れる。まず、いろんな膨大な触覚データベースがあって、それと照らし合わせてその触覚を感じるはずなので。だから、どちらかというと、ハックするって考えたほうがいいと思うんですよ。

意外とそういうものって、もう既に身の回りにもあふれてて、皆さんが座ってるこのプラスチックの椅子なんかもシボっていわれる凸凹がついてるんですけど。こういうのはやっぱり、革であるとか、そういうざらっとした空気感のあるものを模して作られていたりするんですよ。あえて金型の時点でそういうテクスチャーを入れてるんですよね。そういうふうに触覚のバーチャルな技術も発展していくんじゃないかなって気がします。

(渡邊)ちょっとだけいいですか。話していて、すごい面白いなと思ってたんですけど、割とかみ合ってないことを言ってるかなって、ちょっと思ってるんです、実は。

(太刀川)分かる、分かる。

(渡邊)多分、僕が今のに答えるとしたら、「今のこの白い箱(心臓ピクニック)ですら、その体験によっては意味を持つんですよ」とかって言っちゃうんですよね。つまり、結局、触感って、もちろん質感とかそういうものはあるんですけれども、それにどういう意味付けなり個人の体験を乗っけていくかみたいなことに僕は興味があるのかなと。誰でもこれを感じられる技術をつくろうっていうのは、あんまり興味がないんじゃないかと、だんだん話してて思ったんです。最終的には、個人性だと思ってるんですよ。

僕は知覚心理学の研究をしてきましたが、多くの場合は、とりあえずデータ取ると平均するんですそうすると、人間の性質はこうですと。いや、そうじゃなくて、平均した瞬間に、それは誰のデータでもないんですよね。そういうことに関して、何か、ううんっていう気持ちがやっぱりどっかにあって。

おわりに

(南澤)ありがとうございました。Haptic ×(Social)Designということで、触覚と社会性ってところでどういう話になるのかなと思ったところ、どういうふうに合意形成がどこまでできるか、できるはずだっていうところと、そこにやっぱり個人性、主観性っていうものを恐らく個人の差ってものが存在するっていう、この2つのせめぎ合いと言いつつ、渡邊淳司さんのほうは、個人のところからどういうふうに合意形成のほうにつなげていくかってところと、太刀川さんのほうは、ある意味本当に共通で一般化したテクスチャーからどういうふうにコンテクストを持った、意味づけを持たせて個人性をどういうふうに高めていって、そこに意味を持たせていくかっていうところでやられていて、ここの接点がもう少しつながると、この触覚とソーシャルっていうのがつながっていくのかなっていうふうに思いました。

(太刀川)あらゆるものが主観と客観の間にあるので、僕はそんなにずれてるように思ってなかったんだけど。

(南澤)客観から主観に行こうとするのと、主観から客観に行こうとすることの探り合いですね。

(渡邊)、違う分野で、違う視点だから、生まれてくる面白さもあるし。一見、違う事を言っているようで、遠い星と遠い星をつないで意味が見えてくる感じが僕は好きです。

(南澤)まだ多分ほかのデザインの領域に比べると、そこの行き来がまだできるルートっていうのが見え切ってはいないところではあるけれども、だんだんとそこが少しずつお互いから掘って、そろそろ通路がつながりそうなのかなと。

(太刀川)逆にそういう進んだ触覚再現技術があったときに、こういうものがあった場合に、どういうコミュニケーションをするのかっていうことを考えたりするのが僕だったりもするわけなんですけど。

(南澤)多分そういうことですね。

(太刀川)淳司さん、さっきの箱(心臓ピクニック)は、僕、お風呂にしたりしますよ。

(渡邊)お風呂?

(太刀川)例えば。

(南澤)これはまた1時間ぐらいの話になりそうですね(笑)。

(太刀川)でも、そういう要するに、人体に触れてるところでいろいろなものになり得るじゃないですか。そうすると本当に売れるものになったりするんじゃないですかね。

(渡邊)あとで相談させてください(笑)。

(南澤)ということで、Haptic Design Meetup vol.5、Haptic×(Social)DesignをテーマにNOSIGNER 太刀川さん、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 渡邊淳司さんにご講演いただきました。ありがとうございました。

渡邊淳司(NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚表現研究グループ 主任研究員)

渡邊淳司(NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚表現研究グループ 主任研究員)

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員(特別研究員)/東京工業大学工学院特任准教授兼任。博士(情報理工学)。人間の触覚の知覚メカニズム、感覚を表現する言葉の研究を行う。人間の知覚特性を利用したインタフェース技術を開発、展示公開するなかで、人間の感覚と環境との関係性を理論と応用の両面から研究している。近年は、学会活動だけでなく、出版活動や、科学館や芸術祭において数多くの展示を行う。主著に『情報を生み出す触覚の知性』(毎日出版文化賞(自然科学部門)受賞)がある。

太刀川英輔(NOSIGNER代表 / 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘准教授)

太刀川英輔(NOSIGNER代表 / 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘准教授)

ソーシャルデザインイノベーションを目指し、総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等への見識を活かした手法は世界的に評価されており、国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI『OLIVE』を立ち上げ、災害時のオープンデザインを世界に広めた。その活動が後に東京都が780万部以上を発行した『東京防災』のアートディレクションへ発展する(電通と協働)。

ホスト

南澤孝太(みなみざわ・こうた)

南澤孝太(みなみざわ・こうた)

慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授。2010年 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻博士課程修了、博士(情報理工学)。 触覚を活用し身体的経験を伝える触覚メディア・身体性メディアの研究を行い、SIGGRAPH Emerging Technologiesなどにおける研究発表、テクタイルの活動を通じた触覚技術の普及展開、産学連携による身体性メディアの社会実装を推進。 日本バーチャルリアリティ学会理事、超人スポーツ協会理事/事務局長、JST ACCELプログラムマネージャー補佐を兼務。

※肩書は登壇当時のものです。

TEXT BY KAZUYA YANAGIHARA

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