2017.11.22
接し方、使い方、見方を少し変えてみることで、ふだんと違った世界が見えてくる。身体の動きと触覚を連動させる「触覚体操」制作WS。
HAPTIC DESIGN PROJECTは、触れるデザイン、HAPTIC DESIGNのデザインメソッド(方法・手法)づくりに取り組むワーキンググループ『Designing for Touch』を発足させました。
メンバーは、HAPTIC DESIGN PROJECTのメンバーたち。
発起人:小原和也(ロフトワーク/FabCafe MTRL)
渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員)
金箱淳一(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 研究員)
柳原一也(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 研究員)
安謙太郎(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 リサーチアソシエイト)
質感・実感・情感という、いずれも極めて主観的なHAPTICを構成するセンスを、
言語化と体系化していく取り組みをはじめています。
今回は、第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展で行われた「触覚体験ワークショップ」についてレポートします。ワークショップは、『ふるえ言葉のはじまり』にてアート部門審査委員会推薦作品を受賞した渡邊淳司氏とワークグループメンバーの金箱、小原で開催しました。特に、本邦初公開となる「触覚体操」をつくるワークショップを詳しくレポートします。
開催時間は2時間という短い時間でしたが、コンテンツは盛りだくさんでした。
まずは参加者のみなさんで、『リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC』にて展示されている作品の見学ツアーを開催しました。
展示エリアには、お腹と背中に振動スピーカーを装着し電話ボックスの中に入ると、振動を通じて電話相手とコミュニケーションできる「超未来式体感型公衆電話」の体験展示や、撮影された顔写真を元に眉・目・鼻・口の位置やサイズ、顔輪郭の形状を変化させた9枚と、オリジナルの1枚が提示される作品「《自分の顔を探せ!》」などが設置され、作品の制作の意図などを解説いただきながら体験しました。
展示体験から戻ると、次も触れる体験の連続。後半に控えるワークショップに向けて、アイスブレイクを兼ねて「触感名刺」を作成するワークに入りました。
ワークでは、各自に名刺大のハレパネが用意され、そこに自分の名前、性格、人となりなどトータルな印象にもとづいて「触覚」的にデザインされた名刺をつくります。
例えば、おっとりした外見とは裏腹に、実は裏でチクチクした性格の佐藤一郎さんがいるとします。そんな触り心地の名刺をつくるとするならば、柔らかいフェルトで覆って、チクチクした素材を下に潜ませる…そんなふうに自分の性格、印象などを表現した”触覚”名刺を作成します。そして、まずは名乗らずにその触り心地の情報を交換します。
名刺の制作を行いながら、渡邊淳司氏による触覚に対しての考え方のレクチャーもあり、様々な触覚デザインの世界に触れることになりました。
最後に、今日のワークショップのメインテーマである、「触覚体操」制作WSを実施しました。
本ワークグループで触覚体操をつくろう!となったきっかけをご紹介すると、それは渡邊淳司さんがベネチア・ビエンナーレでオーストリアの現代美術家「Erwin Wurm(エルヴィン・ヴルム)」の作品を体験したことでした.。
http://www.erwinwurm.at/artworks.html
それは、第57回ベネチア・ビエンナーレで発表された「The Austrian Pavilion」という展示で、その展示ではフロアの各所に、様々な司令と共に、普通の使われ方ではない様式、形態、設置方法でものが設置されています。
例えば写真のように、キャンピングカーに椅子が刺さっている箇所に、「頭をおいてみなさい」とのメッセージが書かれています。
指示通りにするとこの通り。この作品から我々が発見したことは、普段何気なく接している対象との接し方、使い方、見方などを少し変えてみることで、また違った世界が見えてくるということ。
なるほど!このような作業をすることで、普段の観点とはまた違った体験が手に入りそうだ、というところが着想となりました。
そこで、触覚を新たな視点からデザインすることを目的としたこのワークグループでも、同じような観点から、新しい触覚体験ができるアクティビティを考えました。
いろいろ話し合った結果出てきたアイデアが、「体操」でした。体操とは、ラジオ体操に連想されるように、私達の健康増進、準備運動として、身体感覚をしっかりと整え、向上させる役割があります。
そんな体操をかけ合わせて、触覚的な体験を織り交ぜると、何か面白い体験ができるのではないかという仮説のもと「触覚体操もつくると面白いのでは!」と盛り上がり、今回のワークショップで実験的に開催することとなりました。
触覚と言っても、ただ指先で感じる感覚だけが触覚ではありません。身体の動きや環境の変化の中でこそ感じるダイナミックな体験こそが「触覚」です。つまり、体操がもつ身体を伴った運動の中にも、何かに「触る」という動きを落とし込めるはずです。
そんなダイナミックな触覚体験をつくることで、また新しい触覚の世界が見えるのではないか、そんな思いから今回のワークショップを開催することとなりました。
今回のワークショップでは、実際にラジオ体操のリズムに合わせて6種類の体操をつくりました。
具体的には、各チームにはたくさん用意した様々な「素材」を具体的に触ったり、身体を動かしながら体操をつくってもらいました。
みなさん、最初は少し戸惑っていましたが、実際に素材を触ったり、身体を動かしながらしているうちに、いろんな動きを発見していました。
具体的な動きに関しては、みなさん一度は経験されたことのあるラジオ体操。
幼いころの記憶を頼りにしつつ、みなさん思い思いに触覚と連動させて、また違った身体の動かし方を模索されていました。
具体的に体操が完成していくと、6分割されたシートに、イラストとして動きを記入していきます。また、その動きは、どんな理由からその動きをするのか、またその運動における”効能”を記入していってもらいました。
もちろん最後は実演です。
各チーム、実際にラジオ体操のリズムに合わせて実演をしました。
様々なスポーツの中にある触覚的な運動に注目して体操をつくったグループ
日常生活における様々な「触る」に特化して日常生活がよりhapticになる対応をつくったグループ
同じ素材を、触り方や触る箇所をどんどん変更しながら体操をつくったグループ
というように、様々な体操のバリエーションが生まれました。触覚を指先の体験に留めず、
全身で感じる触体験をデザインする試みとして開催したこのワークショップは、このような形で幕を閉じました。これからもワーキンググループ『Designing for Touch』では、様々な触体験をつくりだすべく活動していきます。