2016.12.08

高橋晋平(ウサギ) 累計335万個の大ヒットおもちゃのアイデアはどう生まれた?

〜“ハマれる”、“欲しくなる”「触覚」のパワー〜

高橋晋平(たかはし・しんぺい)

高橋晋平(たかはし・しんぺい)

2004年株式会社バンダイに入社し、約10年間キャラクターを使用しないバラエティ玩具の開発に携わる。国内外累計335万個を販売、第1回日本おもちゃ大賞を受賞した『∞(むげん)プチプチ』や『∞エダマメ』、自分の本名を冠にさせていただいた『瞬間決着ゲーム シンペイ』を初め、50点以上の玩具の企画開発、マーケティングに携わる。2014年に独立し、株式会社ウサギ設立。現在は“アイデアの共同制作者”という意味を持つ「アイデア・コークリエイター」として、主に企業や自治体などと共同での新商品・新サービスの開発に携わり、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活躍中。

バンダイにて10年間、バラエティ玩具の企画・開発を手がけてきた高橋晋平さんは、累計販売数335万個を販売した『∞(むげん)プチプチ』『∞エダマメ』といった大ヒット商品を始め、数々の新感覚玩具を生み出してきた。2014年に独立し、株式会社ウサギを設立。現在は自身が得意とする「笑い・遊び・ハマり要素」を持つ商品・サービスの開発はもちろん、ゲームやクイズの制作、執筆・講演など活躍の幅を広げている。“ハマる商品”、“欲しくなる商品”を追求していく中で気づいた「HAPTIC DESIGN」の重要性とは?

おもちゃには“気持ち良さ”が大事だと知ったデビュー作

もともとバンダイという会社に勤めていまして、職業は主に“おもちゃづくり”でした。バンダイは、ガンダムや仮面ライダーなどキャラクターのライセンスグッズが有名ですが、ボクは人を笑わせる“ネタグッズ”ばかり作ってきた、特殊なヤツで(笑)。今は独立して、おもちゃづくりで大事にしてきた、ついついやりたくなっちゃう“ハマり要素”を、おもちゃ以外の企画にも取り入れた商品やサービス開発を行っています。

こども向けのおもちゃ……たとえば粘土やブロックなどは、すべて「触覚」を中心とした商品が多いですよね。およそ10年間、おもちゃやネタグッズをつくる中で、この「触覚」というものが、人に遊んでもらったりプロモーションするうえで、いかに重要かに気づかされた瞬間がありました。

1つは、バンダイに入社して2年目につくった「瞬間決着ゲームシンペイ」というボードゲーム。「シンペイ」っていうのは自分の名前ですが、実はこれ、ボクが暗くて友達もあまりいなかった高校生のころ、休み時間にじっと机を見つめていて思いついたゲームです(笑)。ルールは赤と青のコマを交互に動かし、3つを一列に並べた方が勝ち。マルバツゲームを奥深くした感じのゲームです。初めて自分で設計したゲームでしたが、おもしろさには自信がありました。でも最初に出したスタンダード版には、反省点があって。小さいころからボードゲームで遊んできたはずなのに、全然気づけていなかったことがあったんです。

それは、コマを置くときの気持ち良さ。将棋とかオセロって、コマを打つときの「パチーン!」っていう感覚が、非常に気持ちいいですよね。見ていてもカッコいいので、やってみたくなる効果もある。それなのに、最初の製品はコマの入る穴が大き過ぎて、ただコマを置く感じになってしまい、気持ち良くなかった。今だから言えることですけど、おもちゃにとって重要な要素が不足していました。

でも幸運なことにおもちゃ自体はわりと好評で、コンパクト版を出す流れとなりました。そこでは反省を活かして、コマを差し込むときのキュッとハマる気持ち良さにこだわりました。自分でもいいものを作れたなと自信もあったし、やはり売り上げもスタンダード版の数倍以上となりました。

「触覚」のパワーを確信した
大ヒット商品『∞(むげん)プチプチ』

もう1つの気づきの瞬間は、自分のキャリアで一番売れた『∞(むげん)プチプチです。これこそ「触感」、さわり心地だけでどストレートに勝負した商品です。国内外で260万個売れ、玩具としては異例のヒットとなりました。ボクはボードゲームの担当だったのですが、当時ニンテンドーDSが一大ブームで、ボードゲーム市場全体の調子が悪く、売上目標が達成できていなかったんですね。そんなある日の企画会議に出すアイデアがなくて、フロアに置いてあったプチプチを見つけ、それを見て単なる思い付きで∞(むげん)プチプチの企画を出しました(笑)。

そのときは「触覚」がどうのといった計算もなく、絶対におもしろい! とは思ったものの、根拠もうまく説明できませんでした。でもきっと商品になったら売れるんじゃないか、という確信だけはあって、勝手に試作してみたんです。シリコンとタクトスイッチを使って自作した簡易版だったんですけど、プチプチとついやってしまう。やはりこれはイケる! と思いました。

でも勝手に作っただけですので、相変わらず課題は山積み。その1「社内でどうやって通す?」、その2「どうやってお店で売る(プロモーションする)?」。そこでプチプチのことをすごく調べてみました。プチプチは「壊れやすいものに使う梱包材だけど、なんだか指で潰しちゃうもの」という認識は浸透している。それは心理学的に「アフォーダンス※」と呼ばれる現象らしい。簡単に言えば、出っ張っているものを見ると押したくなってしまう人の心理のことですが、「これだ!」と思いましたね。

どうしたかというと、まずプレゼン資料と一緒にプチプチを配ったんですけど(笑)、みんな説明する前に潰し始めるんです。そこですかさず「はい、このようにプチプチは見るだけで潰したくなりますよね? だから“潰してもなくならないプチプチ”を作りましょう」。さらに「透明のクリアケースに入れて、“(むげん)プチプチが潰せない”状態でプロモーション展開したら、押したくなって買っちゃいますよね?」と。それに当時の部長が乗ってくださって、実際にお店でクリアケースに入れて販売したら、それだけで売れていった。

この経験で、完全に「触覚」のパワーを確信しました。これまでも、先ほどのボードゲームの話しかり、ブロックなどをはめたときの触感の気持ち良さは大切だし、引きがあるのは知っていましたが、売れるための本質として感触の良さが大事だと気づかされたんです。

※アフォーダンス 本来の意味は「環境が動物に提供する価値や性質、また関係性そのもの」を示す言葉だが、近年は「物をどう取り扱ったらいいかのわかりやすいヒント」や「さまざまな物体が持つ要素が人に働きかけ、そのフィードバックにより動作や感情が生まれること」という意味で使われることが多い

「触覚」はアナログだけではない
“行為や愛され要素”も「触覚」で捉える

(むげん)プチプチ』は、プレゼンを通すのは大変だったんですが、これが売れたので「もっと押したいもの、触りたくなるものはないのか?」を考えました。最初はかさぶたくらいしか思いつかなかったんですが(笑)、飲み会でふと「えだまめって味はあんまり関係なくて、この行為が癖になるからよく食べられてるんだ」ということに気づいて『∞(むげん)エダマメを提案しました。商品化したら、これも大ヒット。それから、僕の「触覚」を突き詰める長い旅が始まったんです。

3番目に出したのは、『5秒スタジアム。今度は「触感」そのものではなく「行為」に着目しました。これは、体内時計で5秒を予想してボタンを押す、という商品で。5秒に近いと音声が変わって「イケテル~!」なんて声援をくれる。5秒ピッタリだったら、もっと気持ちいい音が出る。押したときの感触や音など、すべての感触を気持ち良くすることを追求しました。

ほかにも『がんばんべあ』という世界初の“くまミュージシャン”のプロデュースもしているんですが、ファンに愛されるため、ここでも「触覚」にこだわりました。着ぐるみをモフモフにしたり、LINEスタンプの動きにこだわるなど、実際に触れるアナログな部分だけでなく広い意味での「触覚」から愛される要素を考えています。

最後に、いまハマっている“触感モノ”を紹介します。アプリゲームの『にゃんこ大戦争』です。これは“にゃんこ”を育成して、ほかの動物を倒しながら敵の城を攻め落とすゲームなんですが、あまりの気持ち良さに、4年前にリリースされてから本当に1日も欠かさずやってます(笑)。“にゃんこ”がほかの動物を倒すときに、ゴリゴリ倒すとか、城をバキバキ破壊する感触が、とにかく気持ちいいんですよね。ほかにも、トレーディングカードゲームのクリーチャーを召喚するときの「パチン」という感触だったり、会議のときに立ちあがって自分のアイデアをポストイットに書いてホワイトボードに「ペタッ」と貼る行為だったり。僕は日常の中にも、いろんなジャンルでハマる遊びや仕事を作っているんですが、それらすべてを「触覚」で捉えているんです。

もちろん、文化的な背景によって触感の良し悪しは変わるので、ターゲットを考えたり、ある種のデフォルメでリアルに伝わるってことはあるかもしれません。こんなふうにアナログなおもちゃだけでなく、“触感の気持ち良さ”をイメージしてアイデアを考えていけば、シンプルに人が“ハマれる”、“欲しくなる”ものが作っていけるのではないかと思います。

TEXT BY MASARU YOKOTA
PHOTOGRAPH BY HAJIME KATO

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