2017.12.01

廣川玉枝(SOMA DESIGN クリエイティブディレクター/デザイナー)身体における衣服の可能性とテクノロジーが生み出す究極のファッション

〜第二の皮膚が築く新時代のファッション〜

廣川 玉枝(ひろかわ・たまえ)

廣川 玉枝(ひろかわ・たまえ)

2006年、ファッション/グラフィックデザイン/サウンドクリエイト/ビジュアルディレクションを手掛ける「SOMA DESIGN」として活動開始。同時にデザインプロジェクト「SOMARTA」を立ち上げる。2007年S/Sより東京コレクション・ウィークに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。

 

廣川さんは、人間が本来もつ肉体に纏う「皮膚」に代わって、自在にデザイン・表現可能なデザインスペースとして「第二の皮膚」を提案し、ファッションデザインのアプローチから可能性を追求しています。その「第二の皮膚」の実現には、現代ならではのテクノロジーを柔軟に既存のファッション制作プロセスに取り入れる必要があり、実践的に取り組んでいる廣川さんの活動は、HAPTIC DESIGNとの親和性も多くあるのではないでしょうか。

今回はそんな廣川さんに、ご自身の活動について詳しく語っていただきました。

Vol.6の様子

2017年12月1日HAPTIC DESIGN Meetup Vol.6の模様。この記事はイベントでのトークを中心に構成しています。
PHOTOGRAPH BY JUNICHI KANEBAKO

第二の皮膚 ー "Skin Series"による究極の衣服とは

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(廣川)こんばんは。廣川玉枝です。よろしくお願いします。

今日来ている皆さんには少し共通点があるなと思いながら見ていました。当たり前のことですが、皆さんは服を着てますね。きっと皆さんは自分の中で心地いいと思っている服を選んで、今日着てきたんじゃないかなと思います。ヒトはみんな大体決まって同じような機能を持っていて、ヒトの形のデザインは大体決まっています。それに対してみんな服を着ているということですね。その際に、皆さんは自由に服を選んでいる。その選んだ服を着ることによって自分を表現することができるということは、フレームデザインとしてすごく可能性があるものなんです。

私はSOMARTAというブランドを2006年からやっているんですけれども、身体における衣服の可能性をコンセプトとして服を作っています。身体における衣服の可能性って、一体何のことなのか。人間だったら人間、車だったら車と、みんな必ず『身体』という概念を持っていて、骨格があって、筋肉があって、皮膚があって、ボディが存在します。みんな形が存在するんです。その形に対して服を着せるという考え方で、服から服じゃないものまでデザインの幅を広げるということについて、ちょっとお話ししていきたいなと思っています。

 

テクノロジーが切り拓いた衣服の可能性、第二の皮膚“Skin Series”

(廣川)第二の皮膚というコンセプトで、無縫製の”Skin Series(スキンシリーズ)”という服を作っています。どうしてこういうものを作ったかというと、人間、すべての人が共通で持っているもの、その根源的なものが皮膚であると考えているからです。
私は日本人で服のデザイナーをしてるんですけれども、文化服装学院という学校を出て、西洋服をずっと勉強してきました。そうやって色々な服に触れているうちに、究極の衣服というのは一体何なんだろうかと考えまして、皮膚のような服を作ることができたら、ファッションデザインの幅がすごく広がるなぁと思っていました。いつか自分が独立したときに、究極の衣服に挑戦してみたいということをずっと思っていたんです。その究極の衣服を作りたいという学生時代の思いに対して、技術がくっついてきたという感じですね。

2000年代に無縫製の機械というのが出始めたころから、急にニットの技術がグンと伸びました。その前から無縫製の研究はずっとされてはいたんですけども、島精機さんだったり海外の機械のメーカーで縫わないでできる衣服というのが登場した時期がありました。ただ、新しい技術であるから技術者はそんなにいなくて、これからすごく発展していく可能性があるなということをすごく考えていたんですよね。自分はずっとニットのデザイナーをやってきたんだけれども、こういう技術があるとデザインする人も必要なので、それを根源的に突き詰めていけたらと思っています。

例えば日本の入れ墨ですけれど、みんな皮膚に対して何かを表現するということをしています。人間が無意識のうちに持っている精神的なものをファッションで表現できないかなということで、『Skin Series』を考え、Skin Seriesの考え方と技術の登場がマッチして、それで初めて、「あっ、この無縫製の機械を使ったら、私の考える理想の服ができる」と思ってデザインしていったのがはじまりでした。

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Skin Seriesの最初のモデル。頭から皮膚まで360度縫い目なくつなぎ合わせてできている

(廣川)このSkin Seriesをどうやってデザインしているかというと、頭のひな形があって、体が美しく見えるように光と影になるところが大体決まっていて、模様をタトゥのように配置しています。その作り方というのは、すごく平面的なんです。ニットのデザインって、すごく平面的で、ある意味、日本人にすごく向いている部分があります。西洋人が得意な西洋服というのはすごく立体裁断で、ボディに布を当てて、それをはさみで切ることで形を作るんですけれども、私は本当に、ザ・日本人みたいな感じで、立体裁断が割と苦手だったんですよね。それで、平面からできていくニットにはすごく興味があって。
今までの立体裁断の西洋式の服づくりというのは、反物を用意して、型紙を置いて、裁断して、縫製をして、1枚の服ができあがります。皆さんが着てるシャツとかジャケットとか、みんなそういう概念でできているんです。それに対してニットというのは、糸を自分で選んで、機械とゲージをいっぱいある中から選んで、その糸の配置を決め、組織をデザインして、それを人の形に合わせて1枚の服を設計します。私はニットのデザインには可能性があって、これから世界を変える力があるかもしれないと、非常に感じたんです。

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光るボディの獲得を目指して、メタリックな皮膚をデザインしたコンセプトモデル

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トライバルタトゥのような刺しゅうをしたコンセプトモデル

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製品版としてデザインしたSkin Series

(廣川)写真でお見せしたのは概ねコンセプトモデルなんですけれども、これを一体どういう製品にするのかというと、肌なじみが良く、ストレッチ性があり、すごく伸びてサイズ感がほとんどない素材の特性を活かして人にフィットするようなタートルネックだったり、タイツだったり、そういった商品を販売しています。

身体から離れていく皮膚、空間を意識して服やプロダクトをデザインする

(廣川)第一の皮膚が人の皮膚だとしたら、この第二の皮膚をデザインするということがSkin Seriesの考え方。これをさらにその先に発展していくにはどうしたらいいだろうかということを、ここ4年ぐらい考えていました。これはずっとブランドを始めたときに、継続的に作り続けて、進化させていこうと思ってたんですけれども、身体にフィットさせるだけでは、服の表現としてすごく限界があるなと考えた時期があったんです。なぜなら、ピタッとする服を着る人はいるんですけど、すごくインナー的な考え方、スポーティな考え方で、ダンサーとかにすごく人気があるんですが、いつも着るわけじゃない。では、どうしたらそれを解決できるのかということで、Skin Seriesの無縫製、デジタル・クチュールという考え方で、機械は同じなんですが、もうちょっと皮膚と空間を意識してデザインする服を作ろうと考えました。

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(廣川)このコレクションは、糸と組織と染め方を変えて日常に着れるワンピースのようなデザインをしたりとか、フィットするものから体から離れていく皮膚のようなデザインとしている新しいSkin Seriesのタイプになります。このSkin Seriesを作るときは、型紙のデータを平面上に配置すると一発で出てくるんですね。ある程度縫製は入るんですけれども、ポケットとか裏地とかを一体成型で出していくという新しい手法の技術です。普通だと、裏地は裏地、表地は表地で作らなきゃいけないものを、一発で裏地と表地を成型で出していく技術です。

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(廣川)このワンピースには皮膚と骨という考え方があって、骨組みに対して布をすごく伸ばして、骨に合わせて着ているデザインです。この骨組みとの空間にある筋肉と一番上に乗っかってくるのが皮膚と考えています。服以外にデザインしたものを紹介します。

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(廣川)これはミラノサローネに出展したときの椅子なんですけれども、スキンボーンチェアといいます。下のスチールが骨組みでできいるんですけれども、そこにSkin Seriesと一緒の服を着せて、着せ替えできる椅子のようなものをデザインしたものです。

 

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(廣川)これは車のデザインですね。車の中身と外側、内臓と皮膚をデザインするという仕事をしました。ボディーの形がすごく美しく見えるように加工しているものです。

 

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(廣川)では、もっと大きなものに着せることができないかということで、もうちょっと空間的なもののデザインもしました。これはオペラシティのアートギャラリーで、ガーデンというタイトルのインスタレーションをしました。5年ぐらい前ですね。オブジェにみかんのネットのような服を着せて、皮膚と骨を加工し、身体そのものをデザインしました。

 

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(廣川)ファッションデザインは今、素材の開発とかテクノロジーはいろいろ進化していて、3Dの技術も最近すごく注目されています。我々はデジタル技術を扱うので、3Dで1回服をつくってみようと思ったことがあって、この場合は衣服じゃなくてオブジェなんですけれども、3Dのデータを作りました。服づくりには、まだまだちょっと向いてないなあというのが3D技術の実際のところで、アートとして存在する1点ものにすごく向いてるなと思いました。

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(廣川)これは、ヤマハさんとコラボレーションして作った車いすですね。ヤマハさんは、電動アシスト車いすというすごく機能的なものをつくっていて、でも黒い座面でパイプ脚のデザインのものしかないということで、女性がパーティに行けるような車いすをデザインしてほしいというオーダーを受けてデザインしたものです。女性がヒールを履くような感じで、女性の身体そのものと一体して車いすを着るという感じで、一体感があるような服のデザインになっています。

 

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(廣川)これは、東京都現代美術館でメルセデスベンツのスマートという車の展示をしたときのものです。そのとき夏休みだったので、子供にも人気が出るような感じのデザインにしようという話で、連続的な鳥の模様のデザインにして、普通のスマートよりはかなり強いイメージになりました。

 

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(廣川)これはイラストレーションの仕事だったんですけれども、ナイキのお店のディスプレイ用に何かを描いてほしいというオーダーを受けたので、ナイキの靴の特徴を生かして、「スニーカーの女神」というタイトルの絵を描きました。ナイキの有機的な曲線なものが、すごく身体的に生きているようなデザインにしています。

 

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(廣川)これはレクサスのCT200という車に対して、ファッションデザインのアプローチで広告を手掛けるというお仕事でした。レクサスのコンセプトは「ニーズ創成」ということだったので、レクサスが速くなったらどうなるかとか、人と車を一体にさせるようなデザインにして身体そのものがちょっと進化したらどうなるかというのを想像して手掛けたアート作品です。

ご紹介してきたように私はファッションデザインを軸に衣服だけでなく、車や家具などの製品に対しても新たな切り口で既存のものにはなかった魅力を引き出したいと考えています。
本日はご清聴いただきありがとうございました。

 

 

TEXT  BY MINATSU TAKEKOSHI
DIRECTION BY ARIA SHIMBO

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