2017.10.04
〜3DCGが鑑賞者に与える"胸キュン"というエモーション〜
石川晃之 / 石川友香(いしかわ・てるゆき / いしかわ ゆか )
2011年頃から、夫婦で3DCG制作を行うユニット「TELYUKA(テルユカ)」というアーティスト名で活動を開始。GarateaCircus株式会社代表。2人ともCGゼネラリストアーティストとして、ムービーの制作やキャラクターアセット制作の依頼を請負っており現在はVritualHumanProjectsを中心にオリジナルヴァーチャルヒューマンから、実在する・していた人間の制作を行う。制作に関しては、友香がディレクションを、晃之(てるゆき)が技術面を担当し制作を行う。
※肩書は2017年10月4日登壇当時のものです。
本物の人のような3DCG”ヴァーチャルヒューマン”を夫婦で制作している3CGアーティストのTELYUKAさん。これまでどのようにしてSayaを生み出してきたのか、そして今後の発展性と可能性について語っていただきました。
2017年10月4日HAPTIC DESIGN Meetup Vol.4の模様。この記事はイベントでのトークを中心に構成しています。
(友香)夫婦でCG制作を行っている、石川晃之と石川友香です。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
2人とも3DCGに関連する仕事を始めて、晃之は20年ぐらい、私は15年ぐらいになります。主にCMや映画、イベント等の映像制作、ゲームの内部のデータの制作で活動してきました。
今日はSayaの話を制作中心にCGの中身の紹介と、後半に作品を作る際に意識してる部分などを紹介します。
Sayaを作りだしたのは2015年の初夏なんですけれども、今年で作り始めて3年目に突入しました。制作形態は私たちを中心にパフォーマンスキャプチャーと呼ばれる人間の動きの部分を東映ツークン研究所さん、カラーマネジメントだとか環境に合わせたさまざまなテクニカルサポートをロゴスコープさんという会社さんにご協力いただきまして制作をしています。研究開発の意味がすごく強くて、研究をしよう、人間のCG制作にチャレンジしようっていうことで始まったのがきっかけです。
(友香)このSayaなんですけれども、17歳という設定です。大人でもない、子どもでもない、ちょうど中間地点にあるこの年代の若い女性が持つきらきらした一瞬の美しさやはかなさというのを、女性である私が表現してみたいなと思ってチャレンジしたのがきっかけです。この17歳という瞬間がちょうど大人の顔の造形と子どものちょっと四角っぽい造形がどんどん移り変わっていく、本当に少ない何ともいえない美しさがあって、これが18歳になるとまた大人びてしまったり、ちょっと意志が強く感じたりとかってあるんですけども、18より17かなっていうことで17歳を設定してます。
(晃之)17がいいと(笑)。
(友香)はい。17がいいってことで(笑)。17から18にいく手前のその17歳の不確実性というんですかね、そこがすごくエネルギーに満ちてるなっていう、私の思い入れっていうのもあったりはするんですけれども、その独特の美しさにチャレンジしたいってことで始めたのがきっかけです。
造形とか質感とかっていうのは、まじまじと17歳の女子高生を観察できる機会ってなかなかなくて、製作中は2人で渋谷に行ってサングラスかけてじっと見ていることを感づかれないようにさらーっと見たりとか、電車に乗ってても、女子高生が乗ってると2人でじーっと見たりとか、そういう苦労をしながら観察することは、今でも繰り返してます。
(会場)(笑)
(友香)どういう女の子を作りたいのかと考えていたのが、まず「17歳」であることと、「優等生っぽい感じ」、「優しい」、「正義感」、「透明感」、「かわいさ」っていうキーワードを2人で持って、2人の中の共通認識を擦り合わせていきました。
こだわり抜いて生み出されたSaya。まるで実際に存在する人物かのような印象を受ける
(友香)肌の制作もすべて現実世界のわれわれの人間と同じ構造を研究して、デジタルの世界で再現しています。造形、あと肌もすべて手作りで一から作ってるので、フォトグラメトリ(※)や写真は一切使用してません。自分たちの人間構造に対する理解と研究をまず第一として始めたことから手作りにこだわったのですが、それが副産物として彼女に独特のゆらぎと不確実性が生まれたのかなあとは思っていて、手作りで行ったために生命感に貢献したのではないかなと思っています。
造形はアニメーションとの連携がすごく深く関わるところなので、動かすテストをして修正するということを繰り返していってるので、まだまだ顔の造形は納得していません。2015年のバージョンが好きな方もいれば、2016年の印象が好きな方もいる。2017年のミスiDの雰囲気が好きっていう方々もたくさんいて、どれが1番いいのかなって今も悩んでます。
質感に関しては、Sayaは今さわることができないので、映像からの刺激だけで彼女の実在感を表現したいと思っています。彼女の素肌の質感が体感できることを目指して、10代の水分と油分を含んだ生々しい質感ていうのを目指しました。特に女性は最初に肌を見るんじゃないのかなと思ってまして、私たち女性があこがれとする美しい肌の再現を優先してます。
ライティングとか実写合成に関してなんですが、実際に現実世界の光を収録し、それをツール内で同じライティングを再現することで現実世界の背景とマッチングできるようになります。
※フォトグラメトリ:物体を様々な方向から撮影した画像データをコンピューターで解析し、3Dモデルを立ち上げる技術
(友香)ここからは作品に落としていくときに、実際に何をしたのかっていうのを説明していきます。まず第1ステージとして目標にしたのが実在感への挑戦。第2ステージの目標が”胸キュン”への挑戦。
まず第1ステージの実在感から説明をしていきます。例えば静止画の場合は作品を作るときにシチュエーションをまず考えるんですね。2016年の静止画を出したときは、私の中で、好きな先輩が目の前にいて、その人が振り返ったときに、もう一番のかわいい顔をしてやろうと、そういう思いを込めてこれを作りました。その先輩に好きになってもらいたい、女の子だったら普通そういう気持ちになるだろうと思って。おかげさまで世界中の先輩をひきつけることに成功しまして。
(会場)(笑)
(友香)では、なぜ世界中の人々をひきつけられたのか。自分もここまで反応があると思わなかったので。
Sayaがかわいいというのはあるとは思うんです。ただその生き物感まで感じてくれている方もいて、CGだと信じない方もいました。それがどういうことなのか。まずCGだということで、人々の興味を、目をひきつけて彼女の表情から人々が自由に想像を膨らませたんじゃないのかなと感じてます。
度々さまざまなところで不気味の谷を越えるコツを質問されるんですけれども、私たちの中ではまだ越えてないんですね。
人それぞれに不気味の谷っていうのはバロメーターの違いがあって、言葉にできないその不気味の谷に関しては感覚的なことなので、まだどうやれば不気味の谷を越えられるのかというはっきりとした答えは出てきていないです。でも彼女の生きてる背景を想像できるのか、それと意志を感じられるのかっていうのはとても重要なポイントだと感じています。
(友香)想像、感情以外のアプローチで8K液晶デバイスで描画して実在感を出すっていう研究にも取り組みました。CEATECのシャープブースさんで、8Kデバイスモニターで描画の研究としてお披露目をしました。8Kという解像度なんですけれども、これがドットが見えないということで人間の視野角に近い描画をすることが可能です。BT2020というカラーマネジメント規格があるんですが、幅広い色域を持っていて、自然界の持つ色調に近い表現を行うことができます。明るさに関してはハイダイナミックレンジを搭載することでまぶしい光の表現や、それに相対する黒部分におけるコントラストを実現できます。これらの要素をハイフレームレートと呼ばれるもので再生すると、より自然で滑らかな動きを伴ってまるでその場にいるかのような臨場感、躍動感を与えてくれるのではないかと私たちはそこにチャレンジのしがいがあるなと思って共同研究をしておりました。ただそのときはまだSayaの初期の頃だったので、デバイスのポテンシャルを活かすまでにちょっと至らなかったなあという反省点があります。
CEATEC JAPAN 2016にて発表されたSaya
(友香)それを生かしたのがミスiDの動画なんですけれども、これは音楽と文章が加わって人々の想像力を刺激する扉がたくさん入ってるんですね。それで彼女の実在感をPRすることにもしかしたら成功したのかなと思ってます。実際たくさんの人々の想像力が結びついて、「実在しているんじゃないか」って感じられるところに少したどり着けたのではないかと考えています。
SayaがMiss iD 2018 Auditionに出場した時の映像。「ミスiD2018 ぼっちが、世界を変える。賞」を受賞した
(友香)次のステージが”胸キュン”なんですけれども、Sayaで胸キュンしてほしいと。人はある感情をエネルギーにして身体的な変化が出ると思うんですね。それでは、胸キュンってどういう状況なのかを考えたときに、好きな人がいたときに胸がぎゅーっと絞めつけられるような感覚っていうんですかね。それもいくつかレベルが分かれていて人を本気に好きになるときのぎゅっとなるような胸キュンと、赤ちゃんだとかペットだとかかわいいものを見たときの、癒し系の胸キュンはたくさんあると思うんです。でもこれをプロダクトとして手で作り出すのはなかなか難しいんじゃないかなと思うんです。もしそれを再現することができたらそのプロダクトは永遠に愛される可能性が高いんですよね。では実際に人間に近しい形で表現されたキャラクターを見たらどうなるのかなと。そこにチャレンジしたいと思います。
その源泉になるのが、ガッキーのポッキーの宣伝です。あれを見たときからずっとそれを自分の手で作り出したいって思っていたんですね。それが本当にできたら、Sayaにすごく可能性が出てくるし、いろんな面白い取り組みができると思っています。その第1段階として取り組んでるのが彼女のしぐさと胸キュンレベルの笑顔、これを突き詰めたいと。これが第一目標です。
(友香)それらと同時に技術面の向上も必要になってきました。リアルタイムエンジンの対応だとか、質感、造形、動きのクオリティアップはずっと続けていく必要がありますし、テクノロジーが進化して新しい技術が出てきたらそれとまた融合することも考えていかなきゃいけない。なので総合的にいろんな部分で制作を進めていく必要は出てくるだろうと思います。Sayaも早い段階からお披露目をして、未完成な部分もあえて見せてきています。3年目になって、毎年進化が楽しみだねって言ってくださる方々が多く出てきて、見守ってくださる方が多くなってきたんですね。それってSayaの存在の認知も深く関係してきている現象でもあるなと。
では、Sayaに人間と同じことさせるのかっていうと、それってそんなにこだわってなくって、SayaにはSayaの役割が絶対あるはずだと思ってるんですね。人間にはできないことが必ずあるはず。そこに市民権を得ていきたい。同じように発表するたびに皆さんからの反応を見て、そこで私たちと皆さんとでコミュニケーションを取って、どういう方向性でSayaを育てていけばいいのか、どうすればそれが社会の役に立つのかっていうことで育てていきたいなと考えています。
あと、今日はHapticということなんですけれども、映像に触覚が加わったら存在感てどうなるんだろうと、ワクワクしてるところでもあるんですよ。なのでいろんな技術とコラボレーションして、Sayaの成長というものをまたもう一歩広げていく活動を、これからも進めていきたいなと考えているところです。今日はありがとうございました。
お互いの「存在感」ですね。普段の生活もCGの作業をしている時もずっと互いに存在感を感じながら過ごしています。二人で作業をしていなければ間違いなくSayaは生まれなかったと思います。もしどちらかがいなくなってしまったら作品制作ができなくなってしまうかもしれません。それくらい直接触れてなくても、話しをしてなくても「すぐそこに相手が居てくれること」が心強いですし、制作のはげみになっているんです。
TEXT BY ARIA SHIMBO