2018.09.03

梶本 裕之(電気通信大学)ヘッドマウントディスプレイのヒットから読み解く触覚ディスプレイの未来

〜触覚ディスプレイ普及の鍵を握る三つのキーワード〜

梶本 裕之(かじもと・ひろゆき)

梶本 裕之(かじもと・ひろゆき)

2003年 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻単位取得退学,2004年博士(東京大学,情報理工学).触覚を中心としたバーチャルリアリティの研究,触覚の医療福祉応用に関する研究開発等を行い,Haptics Symposium,EuroHaptics,SIGGRAPH Emerging Technologies 等における研究発表を行う.日本バーチャルリアリティ学会理事.

電気通信大学 梶本研究室
http://kaji-lab.jp/ja/index.php

これまで梶本先生が率いる電気通信大学 梶本研究室では斬新な切り口でさまざまな触覚ディスプレイの研究開発を行ってきました。今後触覚ディスプレイがさらに普及していくために考えていくべきことを、ヘッドマウントディスプレイが普及しつつある要因と照らし合わせながら語っていただきました。

Vol.3の様子

2017年9月4日HAPTIC DESIGN Meetup Vol.3の模様。この記事はイベントでのトークを中心に構成しています。
PHOTOGRAPH BY JUNICHI KANEBAKO

ヘッドマウントディスプレイのヒットの要因と考えられる
三つのキーワードから触覚ディスプレイを考察する

梶本先生の写真

電気通信大学の梶本と申します。電気通信大学で2007年から触覚を中心としたインタラクティブシステムの開発を行ってきました。最近の触覚研究を牽引してる一つの力は、やはりバーチャルリアリティ(VR)の普及にあります。ですからそういう意味でVRに関連するようなお話を今日はしたいと思っています。
皆さんご存じのようにVRが最近非常に流行ってきているのは間違いないですよね。それの牽引役の一つは明らかにヘッドマウントディスプレイ(HMD)だったわけです。ただ、このHMDというのは、最近の発明ではもちろんなくて、1965年にはもうアイバン・サザランドという人が既に発明していました。しかもその当時、相当性能の良いものを作っています。そういう意味で、なぜヘッドマウントディスプレがここ数年急に成功したのかということをハードウェア側から考察したいと思います。皆さんの意見とはちょっと違うかもしれませんが、私の視点からすると、三つぐらいのポイントがあると考えています。

1,大画面性

一つはHMD、特に最初に売れたOulusRiftが非常に大面積を実現していたことが考えられます。それまでのHMDを皆さん体験してないかもしれないんですが、高精細な立体映像が目の前に小さなサイズで現れるっていうのがほとんどだったんですね。それが全周囲に現れるという現実に近いような体験になりました。

2,高時間応答性

二つ目が高時間応答性で、これもOulusRiftが出たときにVR関係者が驚いたところでした。なぜかというと、首を振ったときにちゃんと世界の映像が止まって見えたんです。これは当たり前のことではなくて、首を振ると当然、HMDだと映像がついてこないとおかしいんですけども、そこでちゃんと動きをキャンセルするっていうことが実装されていました。ですから、これはちゃんと高時間応答性を出さなきゃいけないってことをちゃんとわかってた人たちが設計していたんですね。

3,低コスト化

三つ目が、当然ながら圧倒的な低コスト化が実現されていました。これはOulusRiftが偉いというよりも、モバイル機器が普及したおかげで、HMDに収まるようなサイズの高速な液晶ディスプレイが手に入るようになったことが大きいです。

これら三つのポイントが考えられます。そう考えたときに触覚ディスプレイ、触覚インターフェースでもこの三つのポイントを真似してやれば、ますます普及するんじゃないかと考えてみます。
一つ目のポイントは全身性になります。これは、先ほど申し上げたHMDにおける広視野化と同じなわけですね。これを私が一番最初に体験したのは、2007年に学生が国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)に参加した際に製作した「虫HOW?」という作品でした。

虫HOW?

腕の上を虫がはい上がってくるという作品でした。体験としては簡単で、腕に付けたグローブの内側にモーターがたくさんついていて、そのモーターにたくさんのテグス糸がついてます。そのテグス糸がぺちぺちと皮膚を叩くだけの非常に単純なものだったんですが、それがアリの足の動きを模倣しており、いい感じにアリが腕をはい上がってくる感覚を提示します。このときに驚いたのが、体験者の笑顔ですね。要は、これまで見たことがなかったぐらい受けたんですね。どのぐらい受けたかっていうと、実はアリモードだけじゃなくって、ゴキブリモードっていうのをこっそり作っていて。。

(会場)(笑)

(梶本) ぽちっとボタンを押すと、アリが全部ゴキブリになって、それで触覚もゴキブリっぽい非常に強力な動きになるんですね。そうすると私が見ている前で、知人の男性がケーブルをほぼ引きちぎって逃げました(笑)

(会場)(笑)

(梶本)これは見たことがなかった。視覚でも、聴覚でもそういった体験を見たことがなかったので、これは何か違うことが起きているんじゃないかというふうに思ったわけです。要は「臨場感」なわけですね。ただ臨場感っていう言葉をちゃんとひもといて理解したほうがいいと思います。臨場感は「その場に私が臨んでいる感覚」です。英語だと「Presence」ですけれども、重要なのは自分自身がそこにいるという感覚を提示することです。
つまり自分自身がそのコンテンツの中にいるってことを納得させると臨場感になる。大画面であればいいというわけではないんです。そう考えると実は触覚提示というのは極めて強力であることに気づきます.要は腕に触覚がきたら腕は明らかにコンテンツの中にあるっていうことを納得せざるを得ないわけです。ほかにも大面積に関しては他にもいろんなことができて、先程の作品は学生の自主プロジェクトでしたが,他に例えば毛の逆立ちを利用した研究も行いました。

 

毛の逆立ちを利用した触覚ディスプレイ

20キロボルトぐらいの電圧をかけると、毛がぱっと逆立ちます。毛が逆立つと、われわれは驚いたときに毛が逆立つというふうに思っているので、驚いた瞬間に同時に毛が逆立っているんですね。そうすると何が起こるかというと、このときにびっくりした量を測るとその数値が増えていることがわかりました。つまり生理反応っていうのを全身に対して与えてやると、それによって主観的な情動まで変化させることができそうだということになるわけです。大面積っていうのはやっぱりいろいろ面白くて、大面積にした瞬間にものすごくいろんなことが起きます。

 

シャワーを用いた触覚ディスプレイ

シャワーもリデザインすることで新たな触覚ディスプレイとなる

次に紹介するのは、シャワーのオンオフを利用した触覚ディスプレイです。これは音楽に合わせているんですね。要はシャワーのオンオフをする装置を作りました。これが非常にいいんですね。いくらなら買いますか?3000円ぐらいするかと思うんですが(笑)。
低コストな触覚提示装置という意味でもいいかなと思っていて、作ってくれる会社さんを募集してるところなんですけれども。
その辺にあるシャワーで、全身への触覚提示ができるというものです。これを作ったときに面白かったのが、実は二つ目のポイントなんですが、この研究は時間を合わせることが非常に重要でした。シャワーヘッドから水が飛び出てから体に到達するまで大体測ってみると、150ミリ秒の遅延があったんですね。音楽はその遅延がないので、遅延を計算に入れずに触覚提示をすると、全然気持ち良くないんです。むしろ気持ち悪い感じがします。ですが、150ミリ秒の遅延をちゃんと合わせてやると、急にがらっと体験が変わりました。そういう意味で、二つ目のポイントっていうのは、やっぱり実時間性なわけです。この実時間性というのはHMDで言うと高速応答性に対応していて、時間的にぴったり合わせる。ぴったり合わせることによって、そこに何かあるっていう感じをちゃんと出すことができます。これは一種のクロスモーダル現象(複数の感覚が相互に影響を及ぼしあったり、補完しあうことで本来知覚していないはずの感覚が生じること)が関係していると考えています。リアリズムっていう言い方をしますが、リアリズムとは何かと考えると、実は単独の感覚でリアリズムは生じないんですね。要は高精細な映像を見ただけでは、それをリアルだとわれわれは思わないわけです。ですが、もし複数の感覚が存在していて、その複数の感覚が何か一つの事物を示しているっていうふうに納得した瞬間に、これはリアルだと思うわけです。例えば簡単な例で言うと、立体映像の非常にシンプルなワイヤーフレームの立体映像であっても、あれはリアルだって思っちゃうんです。それはなぜかっていうと右目と左目へ映像を提示することで、二つの感覚が一つのものを指し示してるっていうのを、脳が計算するので、計算して頭が疲れてちゃんと納得するとこれはリアルだと思うわけですね。そういう意味でクロスモーダルになった瞬間にリアルが生まれる。逆にむしろクロスモーダルにしないとリアルが生まれないということを考えると、実は触覚はすごく単純なものであってよくて、単純にチャンネルを増やすという意味でも価値があるということになります。そうやって考えたときに、時間的同期性というのは、やはりとても重要。なぜかというと、先ほどの複数の感覚というのが一つの事物から発生していることを納得させるためには、それを脳の中で計算し、脳の中で同一事象であるということがわからないといけないので、完璧なタイミング合わせということが命になってくるからです。

例えばタイミングを合わせることに関して、シンプルなことを試したことがあります。2016年のSIGGRAPH(コンピュータグラフィックス (CG) に関する国際会議・展覧会の一つ)に出したのですが、鍵盤楽器を模擬したものを作っていて、その鍵盤楽器の中に振動子を仕込むということをしました。

HapTONE

この鍵盤の中に振動子が入っていて、非常に強く振動します。こういった振動子を入れて鍵盤を叩くとちゃんとそれぞれの音が鳴ったり、振動が出たりする。そうすると、ピアノだけどギターっぽいような感触を作ることができます。このときにはやはりタイミング合わせが命だったので、どういうことをしたかというと、ハードウェアを相当頑張りました。要は触覚提示とタイミング合わせのために、触覚提示の部分だけハードウェア的には全部独立させていて、パソコンの処理を介在させないように処理しました。つまり一個一個の鍵盤にマイコンが入ってるような状況です。

プロジェクションを用いた全身への触覚呈示ディスプレイ

縞々の光りが振動を生むためのパターンとなっている

同じように、タイミング合わせるということを考えたときに、大変になってくるのは、全身触覚をやろうとしたときです。まさに先ほどの全身触覚の話に近いんですけれども、全身で触覚を提示するとなった時、パソコン装置と振動子との間の通信をどうやってやるか。例えばBluetooth通信を選択した瞬間に、相当な遅れを覚悟する必要があります。その遅延をどうしなければいけないか。特にこれは全身性のゲームを使うときには非常に重要だと思っています。なぜかというと、例えばわれわれがHMDをかぶって、敵キャラクターを手で叩けるようなゲームを作ったとする。そのときに腕を振る速度が大体10メーター毎秒ぐらいと考えたときにもしも時間遅延が例えば100ミリ秒あったとする。100ミリ秒の時間遅延で10メーター毎秒だったら時間遅延は1メートルの位置ずれになります。つまりこの目の前にある敵キャラクターを叩いたつもりでも、振動は全然違う場所で感じるんですね。そうすると、ここにあるものを叩いた感覚にならない。ということは相当速い応答性を実現しなければいけません。これを本当にKinectで計測し、PCで処理し、振動を返すことができるのだろうかということになりました。このときは、プロジェクターを使いました。要は一個一個の素子自体は光センサーと振動子で、それ以外には何も付けない。そしてそれを体中に貼りつけます。このときには両腕に100個つけました。プロジェクターであらかじめ触覚パターンを空間に投影しておいて、そこに腕がきたら自動的に振動がくる。そうしてやると、それぞれのモジュールには知能は全くなくても非常に高速に振動を提示することができます。
例えばキーパーのゲーム。サッカーのゴールキーパーのゲームで、ボールが来るところにプロジェクターでぱっと光を出しました。そうすると手が届いたところに、触覚振動がくるというようなものになります。タイミングが重要っていうことを言いましたけど、タイミングさえ合えば逆にいろいろだますことができるということもわかりました。特にやはり視覚が有利なので、視覚につられていろいろだませるってことがわかってまして、例えばこれは、エレベーターの中に人を入れて、それでHMDをかぶって、エレベーターの動きに合わせてHMDの映像を動かすということを行いました。このとき何が起きたかっていうと、実はエレベーターが下がった瞬間に視覚映像を上に上げても気づかないんですね。実はこれは、上に上がる、下に下がるっていうエレベーターの往復運動のときに、常に上がり続けるような状況を作ること、無限上昇エレベーターみたいなことをやったりしました。では、前後もできるのかといったら、実はできて、エレベーターが上に上がったときに、前に動いてもそんなに違和感がなく、しかも全く酔わないんですね。タイミングさえ合っていれば酔わないということです。
そして最後のポイントなんですが、さっきのエレベーターの話がどこからきたかっていうと、モーションプラットホーム、要は人の体を動かすような揺動装置っていうのが、あまりにも値段が高いので、どうやったら安くできるかということを考慮して作ったのが、先程のエレベーターでした。ただし上下にしか動かないんですが。そしてその時に考えていたことは低コスト性でした。コンシューマー向けの低コスト化というレベルではないんですが、やはり安くしないといけない。それはやっぱりHMDの場合もそうで、低コストになったから、非常に売れたわけです。だからこれが三つ目のポイントということで、きれいにHMDと対応しています。

先程の「HapTONE」と「プロジェクションを用いた全身への触覚呈示ディスプレイ」は、ある意味、揺動装置の値段の高い例なんですけれども、振動に関してもやはり低コストってすごく重要で、いい振動子は今は1個3000円ぐらいします。すごくたくさん買ったら別なんですけれども。それを体全体に貼りつけることはすごく大変で、しかも体全体に密着して貼りつけることはもっと大変です。ですからそういった、全身触覚提示をやってる人たちはみんな装着性に難儀しています。我々がどう考えたかというと、そういった装着性とコスト性の問題を解いていて、布団圧縮袋の中に発泡スチロールボールをたくさん入れて、体験者の体をその中に入れて布団圧縮袋の空気を抜くということをやりました。これはジャミング現象といいまして、そういうふうに真空にすると、ものすごく硬くなるんですね。ですから、そのとき実は外側に1個、振動子をぽんとつけてやると、全体がどっかんどっかん揺れるという状況を作ることができました。いいアイデアだと思うんですけれども、ちょっと何か、おかしかったのかもしれませんね。

会場 (笑)

発泡ビーズの振動伝搬による広範囲触覚ディスプレイ

梶本   そういった、低コストっていう意味で言うと、これはもう少し一般性があるかなと思ってるのが、骨伝導を使った例です。

鎖骨を介した振動伝播による体内触覚提示

鎖骨を介した振動伝播による体内触覚提示

全身、特に上半身に振動を提示したいっていうときに、この鎖骨の部分の骨の出っ張りの部分に振動を入力してやると、いわゆる骨伝導が起きます。普通、骨伝導は内耳に音を伝達するものですが、そうではなくて上半身に振動を伝搬することができる。実際にレーザー変位計で測ってみても、ちゃんと伝搬しているということがわかって、そうするとこれは全身触覚の低コスト版っていうのができるかなということになったわけです。

全身で低コストっていうことで言いますと、実はもうちょっと昔にやった例があります。これはただのおもちゃのようなものなんですけれども、カチカチ感を出す装置というのを作ったこともあります。腕を曲げてやったときに、いわゆるラチェット機構が入ってまして、カチッカチッカチッという感触を出すことができるんですね。指先の触覚ではなくて、全身の触覚、特に関節の触覚ですが、カチカチという感触がずっとここで感じられていて、それでずっとトレーニングしておけば、人間はそのカチカチ感を感じるだけで、自分の姿勢が変わったように感じるんじゃないかというふうに思ってやったんですが、実際、そういうことは全く起きませんでした。

会場   (笑)

梶本   ただ、実際、面白かったのはこれで腕立て伏せをやるとやる気が出るっていうんですね。だから最終的には腕立て伏せの回数みたいなもので評価したんですが、ただ、何かうそだったのか、実際には回数は変わらなかったんですが。

会場   (笑)

梶本   あとで驚いたのが、これをやったのが2011年のことなんですけれども、2015年、ミズノダッシュドライバーっていうのが実は発売されてまして、これは肘のところにカチカチっていう振動を提示するようなものがあって、正しく腕を振ると非常にいいカチカチがくると。これ、非常に良くて、私もこういうのを発明しておけばよかったなと思いました。

会場   (笑)

梶本   ウェブで見ても評判が非常にいいものです。われわれのものはどういうことになったかというと、実は最終的にはロボット感というものになりまして、先ほどのラチェットを振動子に変えてやると、関節がギシギシいうようなロボットを作ることができました。そうやってみると面白かったのが、ロボットへの変身体験です。大型の木でできたような巨大ロボットにしたり、小型のロボットにしたりしたんですが、やっている人の振る舞いが全然変わるんですね。人の振る舞いが変わるというところが面白かったかなと思っています。

勘所ということで、最後に簡単にまとめますと、三つのポイントがあって、全身に出しましょう、そしたら臨場感が出ます。次に実時間性を保証しましょう、そうするとリアリズムが出ます.最後に低コスト化しましょうと。低コスト化については社会環境が決めるところがあまりに大きいので、どうやったらいいのか私もわからないところがありますが、やったほうがいいのは間違いないと思っています。今日はどうもありがとうございました。

もっとも素敵なHAPTICSだと思う、
世の中のモノゴト(事例)とは?

私が一番好きなお菓子は呉の鳳梨饅頭、二番目は京都の生八ツ橋です。これらのお菓子にはしっとりとしながらぷにぷにとした確かな弾力があるという共通点があります。三番目は五島列島の椿咲菓、四番目はコンビニの蒸しパン(木村屋)。これらもしっとりしています。おそらく私は、手にとって食べるお菓子は手の触感で選んでいるのではないか、と考えています。こうした触感は我々の先祖が、例えば果実の熟し具合を確認するために発達させ、好ましく思うようになったものでしょう。もはや触った瞬間においしいわけです。

TEXT  BY KAZUYA YANAGIHARA

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