2017.12.01

網盛 一郎(株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO)伸縮性エレクトロニクスが導き出したスマートアパレルの未来

〜着られるセンサー"e-skin"の可能性〜

網盛 一郎(あみもり・いちろう)

網盛 一郎(あみもり・いちろう)

次世代スマートアパレルe-skinの東大発ベンチャー(株)Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO。1994年富士フイルム(株)入社し、一貫して新規事業開発に従事。2012年同社を退職後、東京大学・佐倉統研究室において科学技術イノベーション論を研究。2014年より東京大学・JST ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトにて伸縮性エレクトロニクス開発を行い、2015年11月にXenomaをスピンオフ起業。2006年米・ブラウン大院卒(Ph.D.)。

 

網盛さんは、伸縮可能な電子回路の基盤技術の研究を出発点として、まだ世に定着していない「スマートアパレル」の重要性を提唱し、実業家として可能性の探求と普及に取り組んでいます。プロダクト開発に伴い発見されるニーズと発展のサイクルが新しいエレクトロニクスの機能を形づくり、やがて人々がデイリーユースのファッションに求める本質的価値「心地よさ」の必要性に回帰し、HAPTIC DESIGN への想いを語っていただきました。

Vol.6の様子

2017年12月1日HAPTIC DESIGN Meetup Vol.6の模様。この記事はイベントでのトークを中心に構成しています。
PHOTOGRAPH BY JUNICHI KANEBAKO

柔軟で伸縮可能なエレクトロニクスの研究開発から着想した
スマートアパレル“e-skin”

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(網盛)Xenomaの網盛と申します。よろしくお願いします。最初だけちょっと自慢します。我々の開発したe-skinという服が、CES 2017でアワードを取りました。創業したのが2015年11月なんですが、その1年3カ月後ぐらいにこのe-skinを製品化に至りまして、製品化する直前のCES 2017で展示したところ無事賞をいただきました。

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(網盛)e-skinのコンセプトは、最初にちょっとビデオでしか言ってないんですが、よく「ウェアラブルですね」と言われます。でも実は僕ウェアラブルが嫌いで、腕時計もしないんですよ。指輪もしてないですし。なんですけれども、大学発ベンチャーで柔らかいエレクトロニクスがつくれるならば、これは服にすると面白いぞと思いました。

布を回路にすると、身体の服の上のどこの場所にセンサーがあっても、それらを全部つなぐことができますよね。実はエレクトロニクスをつくるときに一番困るの、電池なんですよ。センサー単体を動かすのは実は意外と簡単にできて、デモもきれいにできるんですけど、そこへ電源を供給することが一番大変なんですよね。だったら、それを全部つないで1個の電源で全部動かすようにすれば、服の上でセンシングをして色々なことができるよね、ということでつくりました。

Xenomaは、5年半のJSTのプロジェクトERATOからスピンオフしてます。ERATOは2011年から2017年3月まで東大を中心に進めていたんですけど、ただ実を言うと、僕らは2014年8月から2015年10月までしか在籍してなくて、1年2カ月、ERATOをかすめるように入って出ていったみたいな感じで、創業してます。今、大田区に会社がありまして、ちょうどその移転した時期に資金調達をして、アメリカにオフィスもつくり、CES 2017に出展してアワードもいただいて、製品を出し、現在に至ります。まだ2年なんですけど、実に日本には今、20名従業員がいまして、アメリカにも1名、常勤のアメリカ人がいます。

 

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(網盛)僕らの技術を一言で言うと、布の上に電子回路を作ることができました。もちろん、布の上に回路を作っている人はたくさんいます。だけれども、回路が伸びて、しかも1.5倍伸ばすテストを1万回繰り返しやっても壊れなくて、なおかつ洗濯もできるというものは、多分僕たちの製品しかないです。結構いろいろ調べても他がないので今のところは(2017年12月現在)、僕たちは多分世界唯一でこういうことができる会社です。

性能だけでなく「着心地」も重要視すべき ー ウェアラブル・エレクトロニクス業界にもHAPTIC DESIGNを

(網盛)HAPTIC DESIGN Meetupでは多分皆さんはどっちかと言うと、e-skinにハプティック・フィードバックを入れてみたいな話を想定されていると思うんですが、ファッションデザイナーの廣川さんも同じことをおっしゃっていたんですけど、服のハプティックってやっぱり着心地がめっちゃ大事なんですね。だってどう考えても、性能のいい服より着心地のいい服のほうを着ません?今まで特別にそう思ってたことはないんですけど、ただ、僕がそもそもウェアラブル嫌いなのは、例えば腕時計ってあまり着け心地良くないから、腕時計をしないんですね。指輪も指を曲げたとき何かむくむと痛いとか、そういうのがあって嫌なんですよ。なので、基本的にウェアラブル製品着けないないんですけど、服は基本的に着るので「着心地って結構大事だよな」というのは思っていました。

例えば、iPhoneの特に最初の5ぐらいのときのCPUって、当時のAndroidのCPUと比較すると性能は悪いんですよね。なんだけど、スワイプしたときのUIとか、タッチしたときの感触が良くて、「iPhoneのほうが性能がいい」って皆さん言っちゃっているんです。一方で、グラフィックの描画のスピードはどうですかとか、よくエンジニアの方が質問される性能っていう分脈にしたときは、iPhoneは性能は良くないんですよ。だけど使い心地が良くて、よく売れた。

そういうことを考えると、結構この辺のハプティックは大事だと思っています。僕らはこれを説明するんですけど、なかなか投資家の方にご理解いただけないですよ。それはひとえにHAPTIC DESIGNの活動が足りてないからだと僕は思うんですけど。本当に着心地って、実際に購買行動としてもすごく大事なファクターなので、ちゃんと価値として認められるようにしないと……。日本はこの分野が遅れていると僕は思っていて、日本のこの界隈はやっぱりどうしてもエンジニアさんが多いので、ユーザーの購買行動のときに何をユーザーが好ましいと思うかを考えて、性能の軸を置くというのはすごく多いんですよね。着心地は、少なくとも服においてはすごく重要なファクターなので、もっと市民権を得て、重要なパラメーターになることを強く望みます。HAPTIC DESIGNの活動、ぜひ頑張ってください!
e-skinの今の着心地は、まあ完全に普通のインナーの着心地と同じかと言われると多少は劣る部分もないとは言えないんですが、少なくともほかのデバイスと比べて、トップアスリートの方が着てパフォーマンスが落ちないというくらい、軽くて普通の着心地です。なので実は一番買っていただいているのはスポーツ業界さんです。

XenomaのコアコンピタンスはPrinted Circuit Fabricで、最終的に、e-skinをユニクロの棚に置こうと思っています。要するに、安くてみんながちゃんと着れるということで、結構本気で狙っています。ユニクロの執行役員さんに「どうですか」って言ったら、「500円でできたら持ってきて」って言われて、結構真正面からつぶされたんですけど(笑)。ユニクロの社是は常識を覆すということらしいんで、ユニクロの500円なら買うよっていう常識をユニクロに覆してもらって、僕らのをぜひユニクロの棚に置くことを目指したいと思います。

マルチセンサー搭載、普段着のように洗濯OK!
デイリーユースのモーション認識ウェア

(網盛)大事なのはマシンウォッシャブルです。これ、真面目にやっていまして、ちゃんと洗濯にはISOの規格がありまして、京都のカケンテストセンターという試験検査所にちゃんとe-skinをお送りして、2カ月半かけて100回洗濯しました。100回で終わったんで、「よく100回で壊れるんですか」って言われるんですけど、そうではなくて100回で壊れなかったんです。なおかつ、テストに何十万円も掛かってしまって、検査所に「まだやりますか」と言われて、「もう結構です」というふうにお答えして、マシンウォッシャブル100回ということになりました。

つまり高耐久性があります。センサの曲げ伸ばしで電気抵抗が変わることによって運動を認識する非常にシンプルな原理です。

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(網盛)製品の仕組みとしては、服の上に全部でシルバーのラインに14個のひずみセンサーという、伸び縮みを計測するセンサーが付いています。分かりやすく言えば、ひじを曲げるとセンサーが伸びて、それでひじが曲がったって分かりますねっていう情報を、胸にある「Hub」と呼んでいるものからBluetoothで信号を飛ばします。Hubに電池とマイコンが入っているんですけど、他に加速度/ジャイロセンサが入っているので、その信号も全部飛ばして、インタラクティブなことに使うことができます。

e-skinのカメラフリーは結構大事なポイントです。よくKinectと比較されるんですけど、Kinectでいい用途は、Kinectをどうぞお使いくださいと。僕たちのものはお勧めしません。だけど、皆さん日常生活は基本的にカメラセンサーがないところで過ごしたいと思っているはずなので、そういったところでe-skinをお使いいただければと思います。

e-skinのモーション認識は何に応用出来る? ー 広がるスマートアパレルの可能性

(網盛)e-skinのモーション認識を何に使うんですかと、展示会でよく聞かれるんですけど、スポーツ、ゲーム、あとヘルスケアに応用出来ます。

中でも、あぁなるほどと思ったのがリハビリテーションです。脳梗塞で倒れた方がリハビリで回復し始めるときって、突然こうやって(腕を曲げ伸ばしして)動くことはなくて、筋肉がピクピクって動くぐらいらしいんです。それを療法士さんが触って、本人の意識しているときに動いているかどうかを見て初めて、「ああ、この人は治ってきているね」って分かるらしいんですけど、動かしている方は、筋肉が動いているかどうか分かんないんですね。つまりどういうことかと言うと、療法士さんがずっと付いていないと分からないので、自分で練習もできないということです。なんですけど、e-skinでピクピクっていう動きをセンシングできれば、脳梗塞のリハビリにも使える可能性があります。なるほどなという感じです。

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(網盛)また、工場作業員の異常動作の判定にも用途が結構あると言われています。ただ残念ながらこれ、いわゆる正確なモーションキャプチャーシステムではないので、熟練した人の動きをそのままコピーしてみたいなことには使えないんですけど、やっちゃいけない動きを、例えばあらかじめ決めておいて、それを検出することができます。

あと、「警備員の安全モニタリングにも使えませんか」と言われたんですけど、警備員の人の心臓が止まっていたら、もうアウトなんですよ。それで一番やばいのが「暴漢に襲われているの、これで分かりませんか」というニーズなんですけれど、暴漢に襲われているときのデータを取らしてもらえれば判定できます、という話なんですよね。e-skinでそういうことはできます。

実際にゴルフをやってみました。これは本当に、ちゃんと着てやってもらっています。プロのコーチに良いスイングと、悪いスイング6種をやってもらって、モーション認識したデータを流行りのディープラーニングにかけました。25人の人に1人100スイング振ってもらって、2,500のスイングの特徴をコーチが判定しデータを分けて学習させると、一応これぐらいの精度で識別することができます。だから、自分でデータを取っておいて、自分のスイングのデータと参照することは、このシステムでもできます。もしかすると100万スイングぐらい取れば、第三者のデータでも識別できるようになるかもしれないです。

モーションキャプチャーとモーション認識の違いがなかなか理解されにくいので説明します。実際にやっている人は分かると思うんですけど例えば、例えばカメラシステムでキャプチャしたデータで、すごくきれいな3DCGの映画のアニメを作りますよね。それって、キャラクターが歩いていくじゃないですか。だけどあれは、コンピューターはその人が歩いているとは認識してないんです。あれは、その人が歩いているような座標のグラフィックを作っているだけで、それが歩いている動きだとコンピューターが分かっているわけではないんです。歩いているデータをモーション入力に使おうと思うと、特定の動きをしたときに、その特徴量をとらえて、それが何ですかという「意味化」をしなければいけないんです。「意味化」をするということは、実は、モーションを正確に再現することとは全然別の話なんです。例えば筋電は3次元の座標データを取らないですけど、極論を言えば、3次元の座標が出なくても筋電のデータで「意味化」することはできます。

皮膚変形の認識において、最近よくやるのが筋電擬似でフォトリフレクターを使う「意味化」です。センサーの数がある程度たくさんあって、1つの運動に対してある特徴的な情報が、比較的いい再現性で取れるようになれれば、実はモーションを認識することはできるんです。ただ、モーションを3DCGで作ろうと思うと、きれいな3次元の座標が必要になるので、「意味化」だけではCGはそういうのは作れないということです。これ、デモで見せると、どうしても皆さんモーションキャプチャーに使いたいとおっしゃるので、そのときはもう正直に「使えません」って言います。本当はちょっと使えるんですけど、少なくとも映画のグレードにはできないので、「使えません」というふうにお答えするようにしています。実際にCES 2017では、このシステムをAndroidのアプリに落として、モーション認識のライブデモはやっていて、納得いただいているんですけれどもね。

スマートアパレルの普及のためにプラットフォームを提供する

(網盛)最近ハッカソンでe-skinをお使いいただいて、実際にVRコンテンツを作ってもらったりした事例があります。ただ、ビジネスとして「服を売ってもうかりますか」って、めっちゃ聞かれるんですよね(笑)。

アプリを売って儲かるというのはあると思うんですが、ウェアラブルはもうかりますかって問題があるわけですよ。これ、もう今ウェアラブルって言うと、投資家さんはみんな引きますからね。何ですかね。僕らはもちろん服は売ります。服は売るんです。ただ、例えばスマホアプリへの対応については、僕らはSDKは公開して、ソリューションは誰でもつくれるようにしています。というのは、僕らしかつくれないと、もう僕らは必死こいてソリューションをつくっても、年間に出せる数は知れているんで、そこはアプリ開発については制限しないです。ただ、僕らはSDKをつくっているんで、データを取ることができるんですよ。もちろん個人情報保護法等々の問題はありますが、これがちゃんとビックデータになると、何ができるかというと、プラットフォーム化できるんですよ。なんせ僕らが取るデータは、その人の生体情報に近しい部分なので。そうすると、もしかすると、というか僕らは本気でやろうと思っているんですけど、予防医療に使えるかもしれない。

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(網盛)例えば、今のe-skinはアウターで着るんで、心電データ取ってないんですけど、実は今心電バージョンもつくっています。他にも体温だったり、いろんな生体情報に対応し始めているので、そういったデータを総合的にずーっと取っていけば、いつか本気で予防医療ができるかもしれないと言うふうに思っています。心電データって大抵皆さん、健康診断か、心臓が悪くなってからしか取ったことがないですよね。なんですけど、e-skinによって日常的に健康な人のデータが取れるので、予防医療ができると思っています。今実は、赤ちゃんのバージョンもつくっていまして、心電とか脈とかのセンシングもやっています。

僕らはテクノロジーブランドとして「インテルインサイド」みたいな位置付けなので、服のメーカーさんが僕らの技術をお使いいただくこともできます。もうじき、とある服のメーカーさんから多分発表があります。ただ、こんな服を着るやついないよって、よく言われるんですけど(笑)。とはいえ、僕らはウェアラブルとは言わないで、「スマートアパレル」って言っているんです。そもそも腕時計って、半分以上の人が週に1日も着けないですよ。今日、腕時計を着けている人、どれだけいます? 半分ぐらいですね、やっぱり、そうなんですよ。腕時計って実は、皆さん意外と着けないんですよ。今日、服は全員着てますよね。最近芸人の「アキラ100%」がいるせいで100%じゃなくなっちゃったんですけど(笑)、皆さん服は着てると思います。高齢者向きの老人施設で、「モニタリングするだけなら腕時計でいいんじゃないですか」って言ったら、「駄目だ」と言われました。リストバンドって、認知症の患者さんは外しちゃうらしいんですね。要するに、身体にものを着けているのがやっぱり嫌なんですよ。なので服でないといけないということです。実は、来年100名の認知症がいる患者さんの医療施設で実証実験をやります。

最後にもう1個、今日はHAPTIC DESIGNのイベントなので、やっぱりフィードバックの話をしたいと思います。残念ながら、まだe-skinはフィードバック機能がないんですね。Hapticの難しいところは、消費電力が大きいので服に使うには結構大きな電池を積まないといけないという問題があるんですよ。その辺のところもクリアすると、例えば、ゆっくり動いていいから消費電力の小さいアクチュエーターとかができれば、結構世界は変わると思います。ということで、僕らはすごくHapticの技術に期待していますので、今後ともぜひともよろしくお願いいたします。

もっとも素敵なHAPTICSだと思う、世の中のモノゴト(事例)とは?

意識していないだけでヒトはHapticsに結構依存しているので、もっとも素敵といわれると困りますが、強いて挙げるなら「ライナスの毛布」だと思います。安心毛布とも言われますが、あれってかなり高度に匂いと肌触りが融合して、ヒトに絶大な安心感と執着をもたらしてますよね。匂い(嗅覚)は偏桃体や海馬といった脳の中でも古い場所で記憶に直結しているので、そういった効果があるのは理解できますが、自分が使ってる同じ匂いの他の毛布だとその効果は得られないので、触覚もライナスの毛布の大きな因子だと思ってます。そもそも、匂いがなくても手や足で触れるだけでも結構安心するわけで、それってなかなかすごいですよね。

TEXT  BY MINATSU TAKEKOSHI
DIRECTION BY ARIA SHIMBO

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