2017.01.17

「HAPTIC DESIGN」とは、“気持ちよさの設計”!? 体験とストーリーがつくる、HAPTIC的コミュニケーション

〜ゲスト:渡邊淳司、大屋友紀雄、高橋晋平/ホスト:南澤孝太〜

 

VRの台頭など、ネットと現実社会の境界がなくなり、“ポスト・インターネット時代”といわれる昨今。人々がリアリティやライブ感といった身体性を伴う体験やコミュニケーションを求めるなか、にわかに注目を集める「HAPTIC」。「ふわふわ」「ざらざら」といった肌ざわりから、「存在しないモノがそこにある」という不思議な身体の感覚を通して、モノの存在を認識する感覚。2016/11/19(土)、この「HAPTIC」とデザインの融合を目指す新たなデザイン分野のイベント「HAPTIC DESIGN CAMP1」が開催されました。

今回はそのなかで、イベントのオーガナイザーである南澤孝太氏をホストに、今まさに「HAPTIC DESIGN」を開拓しているフロントランナー3人、渡邊淳司氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、大屋友紀雄氏(NAKED Inc./ジェネラル・マネージャー)、高橋晋平氏(ウサギ/アイデア・コークリエイター)をゲストに迎え行われた、クロストークの模様をお届けします。何かを表現をする人にとっては、間違いなく刺激的で、示唆に富んだお話が飛び交いました。

「HAPTIC DESIGN」は
“欲望を動かす力”を持っている

くろすとーく1

ー左から南澤孝太氏、渡邊淳司氏、大屋友紀雄氏、高橋晋平氏

(南澤)高橋さんは「ハマる要素に重要なのは触感」という考えをお持ちですが、“ハマる”とは具体的にどういうことなんでしょうか?

(高橋)ゲームで想像すると分かりやすいんですが、要するにやめられなくなる癖になるということだと思います。理屈でおもしろいと思うとか、作品がすばらしいという感情だけでは飽きてしまうんです。変な話ですが、ペンだこをいじることをやめられない、無意識に髪を触ることをやめられない、これハマるという状況だと思います。ゲームをやめられなくなることもそうですが、例えばゲームのプレイ実況動画があれだけ見られているのは、見ているだけですでにハマっているからなんです。商品のマーケティングにも応用できます。

(南澤)頭の中に体験が想起されてしまっているんですね。

(高橋)そうです。もう頭の中では、自分でゲームをプレイしている。

(大屋)その分野で言うと、パチンコ業界はものすごく知見が溜まっていていかに気持ち良さを追求するかになっています。当たりそうになると映像がゆっくりと動いたり、その後また速く動いたり、といった音と映像演出の気持ち良さですね欲望を動かすときに、「HAPTIC DESIGN」の考え方は大事ですよね。

(高橋)本能的なものですよね。

(南澤)僕触感の原体験的3歳くらいのときでした。毛布の端っこの折り返して縫ってあるところを口に入れるのが好きだったんです(笑)。今もその感覚を思い出せるんですけど、あれは止まなかったですね。やはり何か快感を感じていたんですかね?

(高橋)ハマるを言い換えると気持ち良さっていう言葉が一番適切なんだろうといます。やはり「HAPTIC DESIGN」というのは気持ちよさの設計なのかもしれませんね。

クロストーク2

(南澤)触覚をデザインするとき、過去に体験したことがない感覚を伝えたい場合、どのようにデザインをすればいいと思われますか?

渡邊例えば、お腹と背中に振動子を付けて、その2つを時間差をつけて振動させると、何かが「お腹の中を何か通った触感」を感じます。その感覚は、誰にも正解がわからないんですが、不思議なことに多くの人が「そんな感じがする」と言ったりします。体験したことがない触感でも、今までの経験から予測できる部分はあるのだと思います。ただ一方で、その予測に対して裏切りをつくることも、ひとつのデザインじゃないかなと思います。

(南澤)映画の効果音で波の音を付けるときに、本物の波の音よりもザルの上で小豆を動かした方がそれっぽいですよね。全然別のところから持ってきた感覚でも、人は経験やイメージとひも付けて解釈します。その解釈が破綻するような状況をつくってあげると、やはり「触覚」も変化する。そういう意味では、ダイレクトに経験していることが必要かというとそうでない。

(大屋)クリエイティブは直感からスタートして、理論もあるのですけど、実はめちゃくちゃ嘘をついているのですよね。例えば映画『君の名は。』はアニメーションなのに実写のようにリアリティを感じたと思いますけど、嘘をつくのがすごく上手だった。人の表情とか影のつけ方とかリアルにすれば正しく伝わるかというとそんなことはなくて、誇張やデフォルメをして初めてリアルに受け取ってもらえるんです

(南澤)以前、大屋さんに「映像作品とは結局は空間設計である」という話をしていただいたのですが、映像の設計と触覚の設計何かつながるものはあるのでしょうか?

(大屋)映像は基本的に切れ目を設計するんですよね。(映像の)切れ目の前後のつながりでストーリーを表現する。だから映像って、全体像が見えないと成り立たない。触覚でも、そういった触る前と後で意味が生まれるのがおもしろいなと思います。また、映像って質感や情感といった、見る人が触感的なものを気にするんですよね。マテリアルが感じられないと映像にならない、というか。反対にそれがあれば「映像の世界に入り込む」という感覚もある。そのあたりが、触覚のデザインと近しいように思います

(南澤)「映像の世界に入り込む」というのは、高橋さんがおっしゃっていた、ハマる感覚に近いですか?

(大屋)そうですね。名作と呼ばれる映画は、何かインタラクションがなくても、空間の中に入っている感じがすると思います。

社会とのつながりをつくることも
「HAPTIC DESIGN」で実現できる

クロストーク3

(南澤)日常の中や社会の中で、「HAPTIC DESIGN」はどのようなものに対応できると思いますか?

(大屋)昔から不思議に思ってることがあるんですけど、食べ物を床に落とすと嫌悪感がすごいじゃないんですか。落とすまではおいしそうなのに。同じものだけど、シチュエーションによって印象が変わる。

(南澤)も「HAPTIC DESIGN」の中には、シチュエーションの設計もあってもいいんじゃないかと感じていました。例えば、疲れて家に帰って飲むビールはおいしいと多くの人が感じる。時間や体験も込みで、味や感じ方は変わりますよね

(大屋)個人的なことで言うと、スイーツを食べるのにふさわしい場所って意外とないと思いません? 店舗は売るのがメインなのでイートインスペースはテーブルがしょぼかったりする。持ち帰るにしても、きらびやかなケーキを食べるような素敵な部屋に住んでいる人は意外と少ない。だから、僕はケーキを食べるに適した柔らかい空間つくってみたいですね。

(高橋)デザインする上で触覚を軸に考えると、ズレにくくなるんじゃないかなと思います。内容のおもしろさ、だけではズレてしまうことがある。例えば『(むげん)プチプチ』はボタンとしては気持ち良いけど、その触感をテレビのリモコンにつけても気持ち良くない。すでにみんなの中で出来上がっているテレビのリモコンに対るイメージや体験がある。だから、すべて気持ち良くすればいいっていうわけではなく、大多数の人が持つ触感のイメージとズレないこと大事だなと思います。

渡邊)話を聞いてると、みなさん触感が好きですね。自分は触感がそんなに好きじゃないんじゃないと思ってきました(笑)。というのも生き物を触れんです、とくに昆虫とかが無理で。でも、は文章を書くときの改行とか、文字とか記号に肌触りを感じる。「HAPTIC DESIGN」のテーマも「質感、実感、感情」というキーワードも、「感情より情感の方が、感が3つ並んで美しいなあ」と思いました。文字として情報を受け取ったとき、その文字を身体感覚としてどう感じるんだろう、ということが気になっています。
触感には、肉体的本能的なものもあるし、その一方で記号的なものを触覚を通じて身体化していくこともあると思います。例えば、テレビでニュースを見たときそのニュースは自分にとってどういう意味があるんだろうと、自分と社会とのつながりを考えることも触感的だと思っています。「選挙に行かないのは自分と関係ないから」っていう人に対して、選挙を自分ごとにしてもらうにはどうしたらいいのか。実態のないものと人つなげるためにどうしたらいいのか。そういうこともHAPTIC DESIGN」つくれないかな、と思っています。

クロストーク4

ルールを作った上で裏切りを加えると
「コミュニケーション」が起こる

(会場参加者からの質問)例えばiPhoneUI直感的な操作を体験させることで覚えさせ今では当たり前のように浸透していますが、触覚は直感的に覚えさせるべきか、もしくは記号的な操作を学習させるべきなんでしょうか。

渡邊直感だけに基づくと、意味のバリエーションが限られてしまうんです。直感的な操作ではないけど覚えなきゃいけない、という状況はどうしても訪れる。ただ、基本的には、コミュニケーションは、日本のオノマトペのように直感的なことが重要ですし、そうであるならば、新しいオノマトペ「さらすべ」であっても、それはサラサラ・スルスルしていて、なめらかなものなんだなとわかったりするのです。

(大屋)デバイスに慣れていくうちに、触覚の新しい意味が自然と生まれることもありますよね。まさにスマホのコミュニケーションがそう。当初はただのチャットだったメッセージングでも今は文字を打たずにひたすらイラストだけ送り合ったりする。それって、実は文字のコミュニケーションだけではなく、感情のコミュニケーションを獲得したわけですよね。僕らは携帯電話がなかった時代も知っているので、新しい触感の学習は可能だと思っています。フレームワークみたいなものがあれば学習できるんじゃないかな。

(南澤)実体験に基づいた触覚は学習可能だとして、過去に体験したことがない触覚デザインは、難しいかもしれないですね。そこには文化的なコンテクストが必要かもしれない。

(大屋)コンテクストが失われている状態で、触覚をデザインするは難しいでしょうね。みんなが共有できる感覚がきちんとないと、体験を作ることは難しい。

渡邊)1つの感覚だけでは、触感はつくれませんよね。例えば、さっきまで固いと思っていてももっと固いものを触ると、とたんにそれは軟らかく感じる。だから、先ほど大屋さんが言った切れ目もそうだけど、連続する触感コントラストをつくることが触覚のデザインなのかもしれないその触覚の違いをどうやってつくるのか。

クロストーク5

(南澤)「HAPTIC DESIGN」は、何から手をつけていけばいいんでしょうね。やはり、自分が感じる身体感覚を言語化するところから入るのがいいのでしょうか。

渡邊先ほどのオノマトペは、身体感覚の言語化ですね。もう少し、つっこんでいくと、身体感覚自体を言語にすることもできるかもしれません。私がやっている、振動だけで二人の人間が会話する実験が参考になるかもしれないです。もちろん最初は何も通じないんですが、やっていと段々「ネガティブなこと言ってきてるな、ポジティブなこと言ってきてるな」とわかってくるんです。このコミュニケーション、振動にどんなバリエーションがあるのかを考え、その上で組み合わせや違いを捉え、相手がどういうつもりなのかを探っているわけですね。

(高橋)違和感というか、予想外のことが起きるともっと気持ち良くなる、というのもヒントになるかもしれない。プチプチ(梱包材)の本家である川上産業さんのプチプチは、1万個に1個だけ粒の形がハートなんです。このネタを応用して、『(むげん)プチプチ』も100回に1プチッ」じゃない音が鳴るようにしました。このバリエーションは本当に入れてよかった機能で、あれがなかったらあそこまで売れてなかったと思います。ずっとプチプチするだけなら10回くらいで飽きてたと思うんですが、100回に1だけ感触はプチッ」なのに「ワン」とか「いやーん」とか「ピヨーン」と鳴る。同じ感触なのに、音が違うだけで全然感じ方が違う。

渡邊なるほど。れは100回に1度だけ違う音」が重要で。繰り返しの中でちょっとした裏切りがあると、それにどんな意図があるのかという思考が働き、コミュニケーションが起こる。同じルールでやっている中で違うものが登場すると、それはどういう意味なんだろうと知りたくなる。

(南澤)まさに「質感、実感、情感」がコミュニケーションやハマデザインにダイレクトに繋がっているわけですね。みなさん、今日はありがとうございました。

クロストーク6

ゲスト

渡邊淳司(わたなべ・じゅんじ)

渡邊淳司(わたなべ・じゅんじ)

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員(特別研究員)/東京工業大学工学院特任准教授兼任。博士(情報理工学)。人間の触覚の知覚メカニズム、感覚を表現する言葉の研究を行う。人間の知覚特性を利用したインタフェース技術を開発、展示公開するなかで、人間の感覚と環境との関係性を理論と応用の両面から研究している。近年は、学会活動だけでなく、出版活動や、科学館や芸術祭において数多くの展示を行う。主著に『情報を生み出す触覚の知性』(毎日出版文化賞(自然科学部門)受賞)がある。

大屋友紀雄(おおや・ゆきお)

大屋友紀雄(おおや・ゆきお)

1997年に株式会社ネイキッドの設立に参画し、コンテンツプロデュース/クリエイティブ・ディレクション/コミュニケーションデザイン/プランニングを中心に活動。代表的なものとして、auスマートパスpresents 進撃の巨人プロジェクションマッピング『Attack on the real』、ニコニコ超会議2015 NTTブース『NTT 超未来研究所Z』総合プロデュース、山下達郎『クリスマス・イブ』20周年プロジェクトなど。

高橋晋平(たかはし・しんぺい)

高橋晋平(たかはし・しんぺい)

2004年株式会社バンダイに入社し、約10年間キャラクターを使用しないバラエティ玩具の開発に携わる。国内外累計335万個を販売、第1回日本おもちゃ大賞を受賞した『(むげん)プチプチ』や『エダマメ』、自分の本名を冠にさせていただいた『瞬間決着ゲーム シンペイ』を初め、50点以上の玩具の企画開発、マーケティングに携わる。2014年に独立し、株式会社ウサギ設立。現在はアイデアの共同制作者という意味を持つ「アイデア・コークリエイター」として、主に企業や自治体などと共同での新商品・新サービスの開発に携わり、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活躍中。

ホスト

南澤孝太(みなみざわ・こうた)

南澤孝太(みなみざわ・こうた)

慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授。2010 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻博士課程修了、博士(情報理工学) 触覚を活用し身体的経験を伝える触覚メディア・身体性メディアの研究を行い、SIGGRAPH Emerging Technologiesなどにおける研究発表、テクタイルの活動を通じた触覚技術の普及展開、産学連携による身体性メディアの社会実装を推進。 日本バーチャルリアリティ学会理事、超人スポーツ協会理事/事務局長、JST ACCELプログラムマネージャー補佐を兼務。

TEXT BY YUI TANAKA /EDITED BY MASARU YOKOTA(Camp)
PHOTOGRAPH BY HAJIME KATO

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